【カムカムエヴリバディ】気になる"対比"と"心憎い演出"...。どうしても重なる気がする母と娘の恋の行方

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「重なる母と娘の恋の行方」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】母・安子は悪者として退場。なんてエグイ脚本だろう...見事なヒロイン交代劇

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藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の9週目。

18歳になり、岡山の雉真家を離れて大阪に出てきたるい(深津絵里)は、竹村平助(村田雄浩)と妻・和子(濱田マリ)が営むクリーニング店に住み込みで働き始める。

クリーニングの仕事を楽しそうにするるいの姿は、心を込めてあんこを炊く母・安子(上白石萌音)と重なるし、客の持ち込んだ衣類から、その人の職業や人となりなどを想像するところは、菓子を食べる人が笑顔になることを想像する安子とやはり重なる気がする。

しかし、るいがクリーニングの仕事が好きなのは、自分の哀しい過去やしがらみを洗い流してまっさらにしてくれる気がするからだった。

自分を捨てて一人、アメリカに渡った母への憎しみを抱きつつ、どこか似てしまうのも、雉真家を出て向かった先が、母と二人で暮らした大阪であることも、何度勧められても手術を拒み続けた額の傷も、母を求め続けてきた気持ちの裏返しに見えることが、なんだか切ない。

そんな中、視聴者が盛り上がったのは、いつも大量に衣類を持ち込む「宇宙人」(オダギリジョー)の服のポケットから、マウスピースが出てきたこと。

後にトランペットを吹くシーンが登場するが、定一(世良公則)の店をのぞいていた戦災孤児なのか。

もう一つの盛り上がりは、安子の兄、つまりるいのおじである算太(濱田岳)を追って、以前「たちばな」に借金取りに来た「コワモテの田中」(徳井優)がクリーニング店に来たこと。

当時と同じスーツを着て、しかももともとあった穴なのに「穴が空いた」とクレームをつけ、慰謝料を請求する。

厄介なヤツのはずなのに、何だろう、この懐かしさと嬉しさ。

つまり間もなく「たちばな」再建の資金を持ち逃げした算太も登場するということか。

ちなみに、この「コワモテの田中」を演じる徳井優は、同じく藤本有紀脚本の『ちりとてちん』では、「あわれの田中」として登場していた。

こちらは、哀れな身の上話をして、同情を買い、借金を返済させる手口を使うことから「大阪一の取り立て屋」と言われていたのだ。

同じ田中で、同じ借金取り、そのつながりが気になる心憎い演出である。

そして、そんなコワモテの田中のクレームから救ってくれたのが、弁護士の卵・片桐(風間俊介)。

るいの父・稔と同じくインテリで、ここにも母子の好みの類似性を感じてしまうし、デートで映画に行くのも安子・稔と同じ。

しかし、突風で前髪が払われ、額の傷が見えた瞬間、会話が止まり、その目はしっかり傷に釘付けになっていた。

しかも、額を押さえて走り去るるいを追いもしない。

稔だったら、追いかけてくれたのに。

たぶん安子をアメリカに連れて行ったロバートも(村雨辰剛)も。

そしてもしかしたら「宇宙人」は、傷を気にも留めないんじゃないか。

そんな対比が気になる状況で2021年放送分は終了。

はたしてるいの恋の行方は?

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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