【カムカムエヴリバディ】るいの心の扉が開いた? オダギリジョーさん演じる錠一郎の「見事な人たらし力」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「錠一郎の『人たらし力』」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】気になる"対比"と"心憎い演出"...。どうしても重なる気がする母と娘の恋の行方

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藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の10週目。

大阪のクリーニング店に住み込みで働くるい(深津絵里)は、客で弁護士の卵・片桐(風間俊介)と初めてのデートに出かけたものの、額の傷を見られ逃げ帰ってしまう。

るいの厚くおろした前髪は、幾度となく嫌な思いをしたのであろう傷そのものと、母・安子(上白石萌音)との思い出などを丸ごと覆い隠し、封じ込める分厚い扉のように見える。

そして、そんな分厚い扉を開けられるのは、正面から向き合う片桐ではないことを視聴者の多くが悟ってしまった瞬間だったろう。

その一方で距離を縮めていくのが、クリーニング店を訪れる謎めいた客「宇宙人」(オダギリジョー)だ。

帰り道、偶然立ち寄ったジャズ喫茶「Night and Day」で、るいは彼がトランペットを演奏する姿を目撃する。

彼は「ジョー」と呼ばれるトランぺッターで、彼の仲間のトミー(早乙女太一)や、ジョーのファンのベリー(市川実日子)とのやりとりに巻き込まれるうち、「Night and Day」のマスター・小暮(近藤芳正)に制服のクリーニングを定期的に依頼されることに。

さらに、ジョーにクリーニングを届けに行った際、ジョーが演奏する「On the Sunny Side of the Street」を聴いたるいは、どこで聴いたか思い出せないその曲に、なぜか涙がこぼれそうになるのだった。

そこからジョーとの「偶然」が、ゆるりゆるりとるいの固く閉ざした記憶の扉、他者に対する重い扉を開けていく。

初めての給料を貯金しようとしていたるいが、店主の妻・和子(濱田マリ)に自分のために使うよう怒られ、しぶしび買い物に出ると商店街でジョーとばったり出くわす。

レコードを買いに来たというジョーに「Night and Day」に連れていかれ、トミーやベリーに「るい」という名前の由来を聞かれるうち、またしても逃げ去ってしまう。

「過去」に触れられそうになる度、瞬時に扉を閉ざするい。

しかし、そこで追いかけてくれるのが、 "本命"ならではだ。

ジョーはるいを「サマーフェスタ」に誘い、彼の本名が大月錠一郎であることがわかる。

ちなみに、ジョーはるいの言葉から岡山の人だとすぐにわかったこと、さらに「錠一郎」の名前の中に、るいの両親――安子と稔(松村北斗)の思い出の店「Dippermouth Blues」のマスター・定一(ていいち/世良公則)の読みを変えた名前が入っていることもあり、ますます「ジョー=定一の店をのぞいていた戦災孤児」説が濃厚になってきてもいる。

そしてサマーフェスタ当日、るいはジョーが演奏する「On the Sunny Side of the Street」を聴くうち、とうとう自分の中に閉じ込めてきた母との記憶が蘇ってきてしまう。

またしても逃げ出するい&追いかけてくれるジョー。

そこでジョーは言う。

「特別な曲なんやと思ってた」

「でも、違うんやな。『On the Sunny Side of the Street』はサッチモちゃん(るいのあだ名)にとって、特別な曲じゃなくて、すっごく特別な曲なんやな」

必死に忘れようとしていた辛い過去を思い出したるいは、「あなたのせいで」と怒りと悲しみをにじませ走り去るが、実はこの曲はジョーにとっても「特別な曲」だった。

やはりジョーは......。

そして、2人の距離がぐんと縮まるのが、「地蔵盆」のとき。

子どもたちに紛れて出店をまわるジョーを窓から見たるいは、ジョーがたこ焼きをシャツに落とす姿を見て、たまらず駆け寄り、「いけん!」「なんであなたは~」とブツブツ言いながらシミをふき取る。

ジョーがるいに「怒ってると思った。もう洗濯してくれないかと思った」と言うと、るいは一言。

「そねえなわけねえじゃろう。私はクリーニング屋なんじゃから」

トランペットは上手いのに、輪投げも金魚すくいも何もできない不器用なジョー。

自分のシャツにホットドッグのケチャップやコーヒー、たこ焼きのソースを落とすなど、自分のことには無頓着なのに、他者の気持ちには敏感で繊細な触れ方をしてくるジョー。

その見事な人たらし力には思わず呻らされる。

と同時に、過去に触れられそうになる度、何度も逃げ出し、自分から扉を閉ざしてきたるいが、自分から駆け寄り扉を開こうとするシーンをスローモーションで描く小粋な演出に心をつかまれた。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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