毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載を毎週お届けしています。今週は「朝ドラが描く一瞬にして奪われる現実」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】「フラグなし」だった大切な人々の死。受け入れがたい...描ききった現実
ラジオ英語会話を軸に、朝ドラ史上初の3世代ヒロインが駆け抜けた100年の人生を描く、藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の5週目。
祖父、母と祖母、父、さらに夫・稔(松村北斗)も失い、安子(上白石萌音)は絶望の底にいた。
そんな安子にとって、娘・るいの成長だけが心の支えだったが、義母・美都里(YOU)に「あんたは疫病神じゃ!」と言われ、きつくあたられる。
しかし、これを単に「姑の嫁いびり」と称するのはあまりに切ない。
なぜなら稔は、安子にとって欠けがえのない存在であるように、美都里にとってもお腹を痛めて産んだ大事な子だからだ。
主人公至上主義のドラマの場合、いかに主人公が可哀想かに主眼が置かれ、「主人公をいびる存在」として義母が配置されがちだが、『カムカム~』の場合は何歳になっても親にとって子どもは特別な存在であることをきちんと掬い上げてくれる。
妻と母、どちらの喪失が大きいかなど、本来比べようもないものだろう。
だが、そんな理不尽な怒りのやり場にされる安子に、義父・千吉(段田安則)は再婚を勧め、るいを養子にしようとする。
安子はもちろん拒絶。
それに見かねた勇(村上虹郎)はるいを連れて雉真家を出るよう安子に促し、援助する。
結婚後は「義姉さん」と呼んでいた勇が、幼馴染としての「あんこ」呼びに戻った瞬間、さらにどうしても困ったら、「わしがおめえをもろてやらぁ」と本音を漏らしたことに、心をつかまれた人は多かったろう。
勇の働きかけにより、安子とるいがたどり着いたのは、稔が学生時代に住んでいた大阪の下宿先だ。
そこで安子はお菓子を作って売ることで生計を立てようとするが、芋飴は簡単に売れない。
そんな中、仕事を終えて帰る安子の心を癒してくれたのは、民家から流れてくるラジオ『英語会話』だった。
るいを背負ったまま軒先でラジオを聴く安子は、過労で倒れそうになるが、主婦・澄子(紺野まひる)が家にあげてくれ、毎日家でラジオを聴いて帰ることを提案。
さらに繕い物の仕事も紹介してくれる。
紺野まひるは『てるてる家族』ではヒロイン(石原さとみ)の姉で、「自分だけの太陽を見つけなさい」と諭した人だし、『スカーレット』では喜美子(戸田恵梨香)に初めて大量のコーヒーカップを注文してくれた婦人。
いつでもヒロインの味方なのだ。
そして、父・金太(甲本雅裕)がいつもしていたように「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」と心を込めて作る安子の菓子は徐々に評判になり、材料が手に入るようになると、おはぎがさらに評判に。
大口の注文も受けるようになった安子は、自転車で売り歩くようになる。
戦争が訪れる前の平和な日常では、少女時代の安子が家で縫物をしていて、思いを寄せる稔の家に配達に行くときに自分の服も一緒に縫ってしまって慌てていた姿も、金太が和菓子を作る様子を幼い頃から見ていた姿も、自転車を稔に教えてもらっていた姿も、一つ一つが思い出され、それがみんな力となり、「現在」につながっていることを改めて感じる。
そして、そんな安子のもとで着実にるいが大きくなっていることに、いちいち涙腺がゆるんでしまう。
しかし、そこに、安子たちの居場所をつきとめた千吉が現れ、岡山に戻るよう言う。
強く拒む安子に、千吉が声を荒げると、間にたちふさがった幼いるい。
その姿は、安子に手切れ金を渡し、息子ともう二度と会わないように言った母に「彼女を侮辱するな!」と怒りをあらわにした稔と重なる。
だが、必死で守ってきた二人の生活は、突然終わりを告げる。
残酷にも配達中の事故により、安子とるいが共にケガをしたからだ。
どんなに一生懸命日々暮らしていても、ひとたび重大なケガや病気が訪れると、途端に生活が破綻してしまうのは、現代の単身者や母子・父子家庭などと同じ。
日々を丁寧に描いているからこそ、積み重ねられていく成長の美しさの一方で、それらが一瞬にして奪われる現実の重みものしかかる第5週だった。
文/田幸和歌子