「できたこと」を認めてほめる。頭の中に警察官ではなく弁護士を。/自分を好きになろう

双極性障害の治療後、長く続く抑うつ状態と向き合ってきた筆者。ネガティブな世界からのサバイバルをあと押ししたのは、意外にも簡単な7つの「行動」でした。2ヶ月ぶりの換気、10秒片付けからはじまる、抑うつ状態への行動療法、認知療法的アプローチの実践と記録に、「自分を好きになる」ためのヒントを探してみましょう。

※この記事は『自分を好きになろう うつな私をごきげんに変えた7つのスイッチ』(KADOKAWA)からの抜粋です。

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前の記事「部屋はきれいになったけど、自己否定グセはとまらない。/自分を好きになろう(7)」はこちら。

【前回までのあらすじ:2章】
記者として東日本大震災の被災地取材を続けるうちにうつ病を発症。
のちに双極性障害の診断を受けて、2年間の休職と投薬治療後、社会復帰を果たした筆者。
喜びや悲しみ、意欲などの感情を取り戻すことはできないもどかしさを抱えながら、まずは部屋の片付けに着手。「自分は変われる」ことに気づくくことができました。

 

SNSでの片付け実況を見守っていた私の古い友人のひとりが、ある日メッセージを送ってきました。
「映里ちゃんの家に遊びに行ってみたいんだけど」

彼女は、外資系企業で人事を担当しているキャリアウーマンです。中学1年生の時からの親友です。

ところで私の両親は、私が中学3年生の時に離婚しました。それまでは器械体操と美術部を掛け持ちし、友達もたくさんいた活発な女の子だったのですが、その頃から私は変わってしまいました。

精神的に不安定になり、学校で友達と話していてもふとむなしくなって、「こんなところで話をしていて何か意味があるんだろうか?」と考えて突然友達の輪を離れてしまったり、学校に来たけれどすべてが面倒になって仮病を使って早退したりとか、そんな感じの毎日を送っていました。学校の中でいじめられたりはしていませんでしたが、かなり「変わった子」だと思われていたのではないかと思います。

彼女は、突然変わってしまった私に驚く様子も見せず、内部進学した高校を卒業するまで変わらない態度で友達付き合いをしてくれました。

しっかり者で明るくて前向き。彼女も数年前にバツイチになったけれど、英語力を伸ばすために学校に通い直したり、フラダンスを新たにはじめたりと、毎日を楽しんでいる様子がSNSを通じて伝わってきました。

彼女になら、遊びに来てもらってもいいかもな。
そう思った私は、「いいよ」と返信しました。

 

自分を許せないと人にも厳しくなる

次の休日の昼に、彼女は丸の内で買った話題のスイーツを持って遊びに来てくれました。私は酒好きなので、甘いものに興味がなく、お店の名前までは思い出せないのですが、キレイな色のケーキでした。

「わあ、汚部屋の写真を見た時はびっくりしたけど、キレイになったね。ここまで片付けるの大変だったでしょ」
友達は私に笑顔を向けてそう言いました。

「うーん、大変だったのかな。わかんない。業者に頼んで持っていってもらったし。それに、普通の人は汚部屋になる前に掃除してるのに、私はできなかったし」
「そうなんだ、でも、キレイにするために業者に頼んだり工夫したんだね」
「工夫っていうか、ネットで検索しただけ」
そう言うと、友達はちょっと困った顔になりました。

「ふーん、そっか......。どう? 快適でしょ? 前はレシピの連載をやったりしていたもんね、またお料理しているの?」
「一応ね。でも私、レシピの連載なんてよくやってたよね、あんな汚部屋にしちゃうような私がさ。たぶん、双極性障害とかだけじゃなくて、ADHDとかもあるんだよ、きっと」

「あはは、なんか、懐かしい。映里ちゃん、いつもそうやって自虐的だったよね。昔から。でもすごいことじゃない。だって掃除の習慣がなかったのに、もう2ヶ月もこうやってキレイを維持してるんだよ?」

「そうかな。なんか、でもいまだに思うんだけどさ......どうせ散らかるじゃん? なんか、掃除ってむなしくならない? やっただけ損みたいな。なんかさ、ごはんも、紙皿と割り箸で食べてその都度捨てたほうがいいんじゃないかなって」

「ちょっとちょっと。何それ」
「ヘンかな?」
「ってか、ちょっと、すごいネガティブすぎだよ。あのさ、映里ちゃん、まずは、できたことを喜んだほうがいいよ。昔っからそうだけどさ、映里ちゃんって、すごいいいところがたくさんあると思うよ。文章がうまかったりして他の人にはできないことをやってるのに、全然そういうの自分で認めようとしないよね。今だって病気で大変な思いをして、でも乗り越えてここまで自力で片付けたんだから、片付けられたことをすごいと思いなよ」

私が出した紙皿を無視して、友達は食器棚から小皿を取り出しました。
昔集めていた、オールドノリタケのケーキ皿です。
「ほら、こういうのは捨てずに残したんでしょ? 紙皿じゃなくてさ、こういうの、ちゃんと使いなよ」

キレイな色のケーキを、ノリタケのお皿に載せると、確かに映えます。
「こういうの見て、わーキレイだな、お皿とケーキの色合わせが合ってるな、嬉しいなって、ならない?」
「普通はそうなるの? レシピの連載をやってた時は、食器と食材の正しい組み合わせっていうのは気にしていたけど、嬉しいとか楽しいとかってなかったな」
「そっかぁ。なんというか、うーん、深刻だな」
友達は少し困ったようでした。深刻だと言われると、私も少し動揺しました。

 

「できたこと」に注目する

「んーとさ、片付けができてすごいって思うとなんか変わるのかな?」
と聞いてみました。友達は、ケーキを食べるフォークを置いて、一息に話しはじめました。

「うん。私は、できたことのほうに注目して、それを喜んだほうがいいと思ってるんだ。人事の仕事してて思うんだけど、うつになって休職したり、やめていっちゃう人ってやっぱり毎年、ちらほらいるのね。そういう人たちに共通してるんだけど、いつもすごく自分を責めてるんだよね。失敗は誰だってするのに、失敗したことだけにこだわって、できてる部分を無視してしまうタイプが多いと思う。でね、そういう人って自分も苦しいからだと思うんだけど他人の失敗にも厳しくて、だから職場で孤立しちゃう。負のスパイラルにはまっちゃうんだよ。だから、できるところを喜んで自分で認めてあげないと。たぶん映里ちゃんは頭の中に、怖い警察官みたいなのがいるんじゃないかな」

「うーん、そうなのかなあ」
なんだか、今まで聞いたことがない話をされて頭がぼーっとしてきました。

「うん。頭の中に警察官しかいないと、絶対に自分が有罪になっちゃうじゃん? だから、もうひとりキャラを作るといいんじゃないかな」
「どういうこと?」
「ほんとはいつでも自分を褒めてあげる人を頭の中に作るのがいいんだけど、たぶん映里ちゃんはいきなり褒めキャラを作るのは難しそうだから、せめて弁護士を頭の中に住まわせてあげて」
「弁護士?」
「うん。でね、自分がダメだなって思ったら、ダメじゃないですよ、ってすぐに頭の中の弁護士さんに仕事をしてもらって。ダメじゃないどころか、できたことはこれだけありますよって、いいところも見つけるようにしてみて。2週間でいいから、騙されたと思ってやってみて」
「それ、やってみてなんかいいことあるの?」
「どうせタダなんだから、とりあえずやってみたらいいじゃん。薬と違って副作用もないから。騙されたと思って」

まだ、気が向きませんでしたし、私は人から何かを指図されるのが本当に嫌いなのですが、中学の時から私とずっと付き合い続けてきてくれた友達の意見だったので、今回は特に不快感もなく聞けました。そして、外資系企業で人事を担当しているこの友達が、うつで離職していく人たちの話をしてくれたことと、「頭の中に弁護士を作る」という、自分を責めないための具体的な方法を教えてくれたことには説得力を感じました。

 

次の記事「病院で教えてくれない「幸せになる方法」は、「自分を大切にすること」。/自分を好きになろう(9)」はこちら。

 

 

岡 映里(おか・えり)

作家。1977年、埼玉県三郷市生まれ。職を転々としながら、慶應義塾大学文学部フランス文学科卒業。のち、Web開発ユニット起業、会社員、編集者、週刊誌記者などの仕事を経る。2013年、双極性障害と診断され休職、離婚などを経験。2年間の治療を経て2015年に症状が落ち着く。以後も続いたうつ状態を、行動療法、認知療法的な視点から改善。

 

瀧波ユカリ(たきなみ・ゆかり)
漫画家。1980年北海道札幌市生まれ。2004年、月刊アフタヌーンで四季大賞を受賞しデビュー。エッセイも発表している。

(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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『自分を好きになろう うつな私をごきげんに変えた7つのスイッチ』

岡 映里[著]・瀧波ユカリ[漫画]/KADOKAWA)

双極性障害の診断を受け、休職して2年間治療に専念。その後、長く続く抑うつ状態に向き合った筆者がたどり着いた、「行動」による回復の軌跡をたどるエッセイ。片付け、おしゃれ、筋トレなど、うつな思考回路から解放されるためにトライすべきことがわかる一冊です。

この記事は書籍『自分を好きになろう うつな私をごきげんに変えた7つのスイッチ』からの抜粋です
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