4月以降、宅配便の遅延や生鮮食品の値上がりの可能性アリ。物流の危機を解説【日本物流学会会長が解説】

(3)「自動運転」を駆使する

自動車の自動運転技術を貨物輸送に用いるという考え方もあります。矢野先生は「アメリカのような道路事情ならあり得る話ですが、日本の道路事情だと、どれだけ技術が発展しても高速道路はともかく、一般道をトラックやトレーラーで完全自動運転ができるようになるかは疑問です」と、話します。また、「開発にもまだ時間が必要で、すぐに問題解決に結びつく技術ではないのでは」とも指摘しています。

消費者が変われば社会の意識も変わる

このような状況に対し、私たち消費者ができることはあるのでしょうか。

矢野先生は、下で紹介しているように消費者の意識が変わり、さらに社会全体の意識が変わっていく必要があるとしています。

「現状に至るまでにはさまざまな要因が絡んでいますが、私たち消費者の行動や要望もその一つであることは否めません。私たちが変われば、社会全体が変わっていくことにもつながります」(矢野先生)

不在による再配達を減らすなど、私たちにできることから少しずつでも進めていけるといいですね。

私たちにできることは?

4月以降、宅配便の遅延や生鮮食品の値上がりの可能性アリ。物流の危機を解説【日本物流学会会長が解説】 2401_P076-077_03.jpg(1)時間指定で再配達を減らす

宅配便が届いた際に自宅にいなかった場合、後日宅配業者に再配達を依頼することになります。「不在で再配達になる宅配貨物は、全ての宅配貨物の中の11%程度を占めると言われています。この再配達が、宅配業者にとって大きな負担になっています」と、矢野先生。「時間指定をうまく利用して受け取れる時間に配達してもらえば、宅配業者の負担が減り、結果として人手不足や運賃高騰の軽減にもつながります」と、矢野先生は指摘します。

(2)置き配や宅配ボックスを活用する
日中は出かけていることが多く、時間指定をして宅配便を受け取ることが難しいという人もいるでしょう。「そういう人は、住宅の条件が許すなら、在宅しているかどうかにかかわらず玄関先に届けた荷物を置いてもらえる『置き配』を利用してもいいかもしれません」(矢野先生)。集合住宅にお住まいの場合は、宅配ボックスを利用している人も多いでしょう。「ただ、宅配ボックスは数に限りがあるのが難点です。預けられている荷物に気付いたら、すぐに回収するようにしましょう。宅配ボックスがいっぱいになっていて再配達になってしまうケースも意外と多いのです」と、矢野先生。

(3)欠品や外装の傷などは許容する
開店直後のスーパーマーケットに行くと、どの棚を見ても商品がきれいに陳列されています。パッケージにも傷や汚れは見当たりません。「小売店側がメーカーや卸売業者に対し、欠品について厳しい態度で臨んでいたことでこのような売り場が維持されていました。パッケージがきれいなのも、小売店側が『箱に傷がついていると消費者が買わない』と考えて、運送時にパッケージに傷がついた商品は返品しているからです。これらが運送業者の負担になっていました」と、矢野先生。さらに、「解決するには社会全体の意識が変わっていく必要がありますが、私たちも『陳列棚の欠品は仕方がない』『パッケージに多少傷や汚れがあっても品質には影響がない』と、受け入れていくことが今後は求められます」と話します。

構成・取材・文/仁井慎治 イラスト/やまだやすこ

 

<教えてくれた人>

流通経済大学 流通情報学部長 物流科学研究所長
矢野裕児(やの・ゆうじ)先生

1957年生まれ、東京都出身。日本大学大学院理工学研究科博士課程修了。富士総合研究所での勤務などを経て現職。物流・流通などが専門で、日本物流学会会長も務める。

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