4月以降、宅配便の遅延や生鮮食品の値上がりの可能性アリ。物流の危機を解説【日本物流学会会長が解説】

今年、2024年問題が取り沙汰されていますが、この問題は私たちの暮らしにどういった影響があるのでしょうか。また、私たちができることはなにかないのでしょうか。今回は日本物流学会会長も務める流通経済大学の矢野裕児先生にお話を聞きました。

※この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年1月号に掲載の情報です。

働き方改革が物流網の維持に影響

日々の買い物でスーパーマーケットに行けば、全国各地から集まった新鮮な食材が並んでいます。

また、近年はインターネット通販が発達したこともあり、外に買い物に行かなくても自宅にいながらさまざまな商品を購入し、届けてもらうこともできます。

とても快適ですが、実はいま、この便利さを支える日本の物流網に「2024年問題」と呼ばれる危機が迫っています。

物流・運送業界に詳しい矢野裕児先生は「『2024年問題』とは、働き方改革関連法の適用によってトラックやバス、タクシーなど自動車運転業務に携わる人たちの時間外労働の上限規制が24年4月から厳格化されることで、これまで通りの物流網を維持することが難しくなることを指しています。一般的な業種では19〜20年から時間外労働の上限規制が始まっていたのですが、自動車運転業務については業務の特性や取引慣行の課題があり、猶予期間が設けられていました。それが24年3月末で終わるのです」と話します。

ドライバーの時間外労働の上限規制が厳格化されると、どのようなことが起こるのでしょうか。

「長距離輸送に大きく影響するのは間違いありません。身近なものだと、野菜や果物などの生鮮食品は、その多くが長距離輸送によって産地から届けられています。休息時間を長くすることが決められていることから、2日で運べていたものが今後は3日かかることになれば、鮮度に影響するのに加え、運賃も高くなります。当然その運賃は物価にも反映されますので、私たちが買う生鮮食品の値上げが予想されます」(矢野先生)

下で紹介しているような対策がいま考えられていますが、「いずれも決定的な対策とは言えないため、運賃が上昇し、その分物価も上がっていく傾向になるのは間違いないと考えられます」と、矢野先生。

さらに「いま、日本の物流業界は『2024年問題』にかかわらず危機的状況にあります。ドライバーたちの高齢化が進み、慢性的に人手不足だからです。特に長距離ドライバーは平均年齢が50歳代と高齢化が進んでいて、現役のドライバーたちの引退が今後10年程度の間に相次ぐ可能性があります。すると価格の値上げに留まらず、これまで通りに荷物を運べなくなることすら考えられるのです。私たちが個人的に利用する宅配便にも、もちろん影響します」と、続けます。

「2024年問題」への業界の対策は?

(1)「中継輸送」を使う

4月以降、宅配便の遅延や生鮮食品の値上がりの可能性アリ。物流の危機を解説【日本物流学会会長が解説】 2401_P076-077_01.jpg中継輸送とは、あるA地点とB地点の中間で上図のようにドライバー、あるいは荷台を交換して中継することで、本来の半分程度の距離を日帰りで行き来できるようにする仕組みです。「ただ大手ならともかく、中小の運送業者では会社を超えての連携が必要など手間がかかることや、道路事情などの要因で一つ遅れればその影響が広範囲に及んでしまうことなど、そう簡単にはいかないのが現状です」と、矢野先生。

(2)「モーダルシフト」を進める

4月以降、宅配便の遅延や生鮮食品の値上がりの可能性アリ。物流の危機を解説【日本物流学会会長が解説】 2401_P076-077_02.jpgモーダルシフトとは、トラックで行っていた輸送を、船や鉄道による輸送に置き換えることを指します。二酸化炭素の排出削減につながり環境にも優しいため、政府もモーダルシフトを推進しようとしています。「フェリーだと運賃は陸送の場合より基本的には高くなりますし、鉄道を使うにしても運べる量の制約があります。政府は今後10年で船や鉄道での輸送を倍にしたいと言っていますが、輸送能力を考えると非常に難しいです」(矢野先生)

 

<教えてくれた人>

流通経済大学 流通情報学部長 物流科学研究所長
矢野裕児(やの・ゆうじ)先生

1957年生まれ、東京都出身。日本大学大学院理工学研究科博士課程修了。富士総合研究所での勤務などを経て現職。物流・流通などが専門で、日本物流学会会長も務める。

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