2023年1月スタートの「生前贈与」の新ルール。年内から始めた方が得なのか【税理士の山本先生が指南】

相続税法の一部が改正され2024年1月から仕組みが変わります。そのため、2023年中に駆け込みで贈与を行ったほうがいいと考える人がいるようです。今回は、この改正について詳しく、実例を上げながら、税理士の山本先生が解説してくれました。

この記事は月刊誌『毎日が発見』2023年11月号に掲載の情報です。

生前贈与を行えば
本当に節税ができる?

相続税法などの一部が改正され、相続時の節税対策として効果的だった「暦年(れきねん)贈与」の仕組みが2024年1月から変わります。

誰かに財産を贈った場合には、受け取った側が贈与税を納税しなければなりません。

しかし年間110万円までの贈与は控除の対象となり、非課税で贈ることができます。

つまり毎年110万円ずつ分けて贈れば、その分相続財産が減って節税につながるのです。

これが「暦年贈与」です。

相続や贈与に詳しい山本宏先生は、「これまでのルールでは、贈与する人が亡くなり相続が発生した時点から過去3年間の贈与分は相続財産に加算され、課税されていました。しかし2024年からは法定相続人(※) に贈与した場合は、その加算期間が7年に増えることになったのです」と話します。

2023年12月までの「暦年贈与」については従来のルールが適用されるのですが、2024年1月以降に行う「暦年贈与」については、次に紹介しているように新ルールが適用されます。

そうなると「2023年中に『駆け込み贈与』を行った方がいいのかも」と考える人もいるのではないでしょうか。

「私の事務所でも『駆け込み贈与』の相談件数が増えていますが、まずお伝えしているのが、そもそも『生前贈与』を行う必要があるのかということです」(山本先生)

注意したいのは、相続税には基礎控除が存在することです。

その額は後述の計算式で導き出せるのですが、相続税が課税されるのは基礎控除額を超えた分のみです。

「例えばある男性が亡くなり、妻と子ども2人が残されたとしたら、基礎控除額は4800万円です。その場合、男性の相続財産が4800万円以下の場合は、相続税が発生しません」と、山本先生。

「この基礎控除額を超える財産をお持ちでなければ、そもそも生前贈与による節税を検討する必要はないのです」と、続けます。

さらに、夫婦のいずれかが亡くなったときの「一次相続」と、残された配偶者も亡くなって子どもたちが財産を相続する「二次相続」とでも、大きな違いがあるといいます。

「『一次相続』では、持ち家がある場合などは小規模宅地等の特例、といったように配偶者がさまざまな特例を適用できるので、大幅な節税が可能です。具体的に生前贈与を検討すべきなのは、相続税の基礎控除額を大幅に超える財産があり、かつ『二次相続』でも相続税が発生する場合です」(山本先生)

※財産を相続する権利を持つ人。配偶者と、子や両親、きょうだいといった血族が該当。孫や甥、姪は法定相続人には当たらないが、子やきょうだいが亡くなっている場合は、代わりに法定相続人として「代襲相続」が可能になる。

暦年贈与の新ルールとは?

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「暦年贈与」の新ルールでは、2024年1月以降の贈与については、相続が発生した時点から過去7年間までの贈与分が相続財産に加算されます。ただし経過措置が設けられていて、簡単に言えば、2027年1月1日から2030年12月31日までに相続が発生した場合は、2023年12月31日以前の贈与については相続財産に加算されない、ということになります。

上の表を使って、具体的に見ていきましょう。毎年春〜秋頃に110万円の贈与を行っていた場合、もし贈与していた人が2025年1月1日に亡くなって相続が発生すると、加算されるのは2022年1月1日までの過去3年分の贈与が対象になります。一方2029年1月1日に相続が発生した場合は、経過措置により2024年1月1日〜2029年1月1日までの贈与が加算されることになります。そして経過措置が終了した2032年1月1日に相続が発生した場合は、新ルールに基づき2025年1月1日からの過去7年分が加算されるのです。

生前贈与を考える前に、相続税の基礎控除額を算出しましょう
基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)

 

<教えてくれた人>

山本宏税理士事務所 所長/税理士
山本 宏(やまもと・ひろし)さん

1968年生まれ。95年11月税理士登録。中小企業、個人事業主や不動産オーナー向けの税務申告、会計指導などに加え、個人向けに贈与・相続にまつわる総合的なサポートも行う。

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