年間で約4万3,000円もの値上げに。電気料金高騰の背景に私たちにできる対策とは

現代の日常生活にとってエアコンの冷暖房は必要不可欠。しかし、その動力となる電気の料金は高騰するばかり。今回は、日本エネルギー経済研究所 電力・新エネルギーユニット担任補佐 研究理事の小笠原潤一さんに、「電気料金高騰の背景と私たちにできる対策」についてお聞きしました。

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東京電力や関西電力など従来からある全国10の電力会社(旧電力)のうち、東北・北陸・中国・四国・沖縄の5社が昨年11月、家庭向けを含む電気料金の値上げを国に申請しました。

認可されると、4月からkWh(キロワットアワー)あたり10円程度料金が上がります。

1世帯あたりの年間電気消費量の全国平均は4,322kWh(環境省調べ。2017年度)。

単純計算すると年間で1世帯あたり約4万3,000円もの値上げとなり、家計に大きく影響します。

電気料金に詳しい小笠原潤一さんは「注意したいのは、今回の値上げ申請の対象は電気の『規制料金』であることです」と話します。

電気料金には現在「規制料金」と「自由化料金」の2種類があり、それぞれ下で述べているような違いがあります。

「火力発電の燃料となる液化天然ガス(LNG)や石炭の価格高騰により、法的制限のない『自由化料金』は、2021年頃から値上げが始まっていました」(小笠原さん)

国内の発電の電源構成は天然ガスと石炭による火力発電が約7割を占めています。

この2つの燃料価格が高騰していて(下参照)、電気料金に影響しているのです。

「自由化料金」とは旧電力10社だけではなく新規参入業者(新電力)も提供している料金プランです。

「燃料費高騰により経営が厳しくなり撤退・破産する新電力も現れました」と、小笠原さん。

今回ついに燃料費高騰で赤字に耐えられなくなった旧電力5社が法的制限がある「規制料金」の値上げ申請を行うことで、電気料金の今後に不安を抱く人もいるのではないでしょうか。

「ここまでの値上げは2016年4月の電力小売自由化開始時には想定されていませんでしたが、燃料費高騰のピークは過ぎています。また、国が負担緩和策として電力小売事業者への補助金交付を決めたので、『規制料金』の値上げが認められても、そのうち7円は国の補助金で負担されるため消費者の負担はkWhあたり3円程度で済みます」と、小笠原さん。

この補助金は現状、1~8月の使用分(2~9月請求分)と、9月使用分(10月請求分。補助はそれまでの半額)に適用される予定です。

「ただし、この補助金を受け取るには国への申請が必要なのですが、申請が認められている事業者の多くが旧電力で、全ての新電力が申請するとは限らないようです」(小笠原さん)

また、下でも述べているように、燃料費高騰は落ち着きつつあるものの、ヨーロッパのガス会社の在庫次第で今後再燃しかねない状況です。

新電力と契約している人については「旧電力との契約に変更することも検討していいかもしれません」と小笠原さん。

さらに「特に昨年11月に値上げ申請をしなかった北海道・東京・中部・関西・九州の5つの旧電力のエリアにお住まいの場合は、『規制料金』の方が『自由化料金』よりも安いので、契約している料金プランを見直してみるのもよいと思います」と話します。

とはいえ、国による負担緩和策が適用されるのは9月使用分まで。

それ以降のことは、今後の燃料価格の推移などを注視する必要がありそうです。


電気料金のしくみ

電気料金は(1)基本料金、(2)電力量料金、(3)燃料費調整額、(4)再生可能エネルギー発電促進賦課金の4つで構成されています。

(1)は契約に応じて固定。

(2)は使用した電力量に応じて算定。

(4)は太陽光発電などの再生可能エネルギーを活用していく際の負担を契約者で均等に負担するもので、これら3つはいずれもいまの電気料金高騰に影響していません。

問題なのは(3)です。

規制料金では下記のように燃料費調整額に法的制限があるのですが、「その上限を超えて燃料費が高騰してしまっていて、旧電力5社が昨年11月に値上げ申請を行いました。値上げ額はkWhあたり10円程度になりますが、実はこれでも燃料費上昇分の差額全てではありません」と、小笠原さん。

「値上げをけしからんと考える人もいるかと思いますが、値上げ申請した旧電力5社は経営効率化などを図ることを前提に、値上げ幅をできる限り抑えようともしているのです」と続けます。

【規制料金の特徴】

・2016年4月の電力小売自由化以前からある料金プラン

・経過措置として旧電力10社によってプラン提供が続けられている

・家庭向けでは「従量電灯」といったプランが該当

・料金設定や燃料費調整額の上限に法的な制限があるため、これまでは燃料費高騰の影響を受けにくかった

【自由化料金の特徴】

・2016年4月の電力小売自由化以降に提供されている料金プラン

・新電力だけではなく、旧電力10社も提供

・料金設定や燃料費調整額の上限に法的な制限がないため、燃料費高騰の影響を受けやすい

・夜間の利用がお得になるプランなどが生まれたように、自由度が高い


電気料金高騰の背景

1.ロシアのウクライナ侵攻前からLNGの価格は上昇していた

燃料費高騰と聞くと昨年2月に起きたロシアのウクライナ侵攻が原因だと考えてしまいますが、「実はヨーロッパでは2021年に入ってからじわじわとLNGの価格が上がっていました。ロシアのウクライナ侵攻より前なのです」と、小笠原さん。

その理由は、ヨーロッパのガス会社の天然ガスの在庫が減っていたこと。

「ヨーロッパでは二酸化炭素排出削減のために脱火力発電が進んで風力発電が盛んなのですが、ちょうどその時期によい風があまり吹かなかったのです。それで天然ガスの需要が高まって価格が上がり続け、昨年8月にピークに達しました」と続けます。

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2022年9月、バルト海中で突如損壊したロシアとドイツを結ぶ海底天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」。写真はドイツ側の施設。何者かによる破壊工作も疑われている(2022年9月19 日撮影)

2.インフラ損壊により状況がさらに悪化

ではロシアのウクライナ侵攻は燃料費高騰に無関係かというと、「そうではありません」と小笠原さん。

「侵攻当初はヨーロッパに天然ガスを送るインフラに影響がなく供給が続いていたのですが、そのインフラが損壊する事件が起こり供給量が減っていきました。そのことも影響しています」。

日本のLNG購入価格も、このような情勢に巻き込まれ高騰していきました。

「いまはピークを過ぎて価格も落ち着きつつありますが、2024年にはまたヨーロッパの天然ガスの在庫が尽きるという見方もあります。将来的なリスクは消えていません」。

3.LNGの代わりに石炭需要が増え石炭の価格も上昇

LNGの価格高騰により、中国やインド、タイといった国々が石炭による火力発電に軸足を移したことによって、石炭価格も上昇しました。

「脱炭素が進む中で、そもそも石炭生産量が増えるような開発が行われなくなっていることも影響しています」と、小笠原さんは説明します。


※この記事は1月10日時点の情報を基にしています。

取材・文/仁井慎治 写真提供/ロイター=共同

 

<教えてくれた人>

日本エネルギー経済研究所 電力・新エネルギーユニット担任補佐 研究理事
小笠原潤一(おがさわら・じゅんいち)さん

1969年生まれ、千葉県出身。96年、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科卒業。
95年10月日本エネルギー経済研究所入所後、2018年7月より現職。専門はエネルギー需給分析、電力経済など。

この記事は『毎日が発見』2023年2月号に掲載の情報です。
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