【どうする家康】ムロ秀吉に近づく「崩壊」の足音...ついに登場した運命の男・石田三成に視聴者がざわつく理由

日本史上の人物の波乱万丈な生涯を描くNHK大河ドラマ。今年は、松本潤さんが戦国乱世に終止符を打った天下人・徳川家康を演じています。毎日が発見ネットでは、エンタメライター・太田サトルさんに毎月の放送を振り返っていただく連載をお届けしています。今月はさらに肥大化する秀吉の欲、そして石田三成との運命の出会いについてお届けします。

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】石川数正(松重豊)は裏切り者か? 古参家臣が秀吉サイドへ出奔した「愛ある理由」

【どうする家康】ムロ秀吉に近づく「崩壊」の足音...ついに登場した運命の男・石田三成に視聴者がざわつく理由 morita_09@.jpg

イラスト/森田 伸

松本潤主演のNHK大河ドラマ「どうする家康」。本作は戦国の世を終わらせ江戸幕府を築いた徳川家康の生涯を、古沢良太が新たな視点で描く作品だ。本記事では9月放送分を振り返る。

秀吉(ムロツヨシ)の肥大化と崩壊の始まりが描かれた9月放送分の「どうする家康」。本能寺の変を経て、ますます怪物化する彼の「欲」は、天下統一を目前にさらに加速していく。それは実の母である「大政所」仲(高畑淳子)をして、「とんでもねえ化け物を産んでまった」と言わしめるほど。

いっぽう、ここへきてあらためて対照的に強調され描かれるのが、家康の目指す「戦なき世」。もとは、家康がその死後も愛し続ける正室の瀬名(有村架純)が夢描いた、国どうしが争わず、話し合いでつくりあげていく理想の世界のこと。家康は瀬名の死後もその遺志を心に秘め、自らを殺し、秀吉の妹・旭(山田真歩)と結婚し、上洛し臣従し、権大納言の地位についた。なぜ戦わず、秀吉に従うのか。9月の家康は「戦のない世をつくる」という覚悟を、視聴者に、家臣たちに何度も念を押すように示し、そのことが戦と権力ですべてを塗り潰そうとする秀吉との対比として鮮明化されていく。

そんな家康が、一人の男と出会う。中村七之助演じる"豊臣家臣一の変わり者"石田三成である。

石田三成。この先物語がどう描かれていくかはわからないが、歴史的事実が覆ることはない。そう、1600年、天下分け目の関ヶ原の戦いで家康と対峙することとなる、ある意味「ラスボス」ともいえる運命の男だ。

「どうする」版の三成は、夜空の星を眺める姿で我々の前に登場する。南蛮では星をつないで形を見出す「星座」の物語があると、キラキラした表情で初対面の家康に説明し、家康の好奇心を駆り立てる。
「新たなるやり方、新たなる考え方が必要と存じます」
と語る三成。その言葉にうなずく家康に、
「気が......合いそうでござるな」

信長(岡田准一)を失った本作に、新たなキュンキュン要素がキタ!? そう思わせるほどいい感じの雰囲気を醸し出す2人。瀬名、家臣団...ドラマが進むにつれて深刻化していた「かわいい不足」を一気に解消してくれそうな、これまで見たことのないキュートで爽やかな三成が現れた。

運命的な出会いとは反対に、9月放送回では大きな「別れ」も。序盤から愛着あふれるキャラクターとして描かれてきた「三河家臣団」たちと、ついに別れの時がきたのだ。

天下統一目前の秀吉の前に大きな難関として立ちはだかっていた小田原の北条氏を、いわゆる「一夜城」の戦法で降伏させた秀吉は、家康にこう告げる。
「お主は......江戸」
さらに家臣たちをそれぞれ城持ちの大名として東国で独り立ちさせてやれと提言する。 それが意味するものを本多正信(松山ケンイチ)がわかりやすく解説。
「江戸に町を作らせ財を失わせ、ついでに徳川の強みである家中をバラバラにして繋がりを絶つ。とことんまで我らの力を削ぎにきた......とも言えますな」
当然悩む家康。しかし、集まった家臣たちは、すでにその運命を知り、笑顔でそれを受け入れた。それもまた「殿」のため、そして家康の目指す戦なき世をつくりあげるため。乱世の中、家臣たちも大きく成長していた。それぞれの家臣に一言ずつ言葉を授け、家康の涙と笑いとともに、愛すべき家臣たちの旅立ち、どこか卒業式的に視聴者も一緒に見送るような爽やかな別れの演出を見せてくれた。

家康は、彼のもとを訪れた三成にこう告げる。
「わしは、戦なき世を成すために、殿下(秀吉)に従う」
その思いを聞き、三成が強い眼差しで言う。
「戦なき世を成す。私はかねてより、徳川様と同じ星を見ていると心得ております」
思いは同じ。こんなに心強いことはない。それなのに...。2人の関係が、関ヶ原に向けてどう描かれていくのか。10月もまだまだ目が離せない。

文/太田サトル
 

太田サトル
ライター。週刊誌やウェブサイトで、エンタメ関係のコラムやインタビューを中心に執筆。

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