【どうする家康】茶々(北川景子)が真のラスボスか? まだ「青い」石田三成を裏で煽動する「女狐」茶々に、「狸」家康は...

【前回】ムロ秀吉に近づく「崩壊」の足音...ついに登場した運命の男・石田三成に視聴者がざわつく理由

日本史上の人物の波乱万丈な生涯を描くNHK大河ドラマ。今年は、松本潤さんが戦国乱世に終止符を打った天下人・徳川家康を演じています。毎日が発見ネットでは、エンタメライター・太田サトルさんに毎月の放送を振り返っていただく連載をお届けしています。今月は石田三成の心境の大きな変化、暗躍する茶々についてお届けします。

※本記事にはネタバレが含まれています。

【どうする家康】茶々(北川景子)が真のラスボスか? まだ「青い」石田三成を裏で煽動する「女狐」茶々に、「狸」家康は... morita_10@.jpg

イラスト/森田 伸

松本潤主演のNHK大河ドラマ「どうする家康」。本作は戦国の世を終わらせ江戸幕府を築いた徳川家康の生涯を、古沢良太が新たな視点で描く作品だ。本記事では10月放送分を振り返る。

38話「唐入り」
39話「太閤、くたばる」
40話「天下人家康」
41話「逆襲の三成」
これらサブタイトルを見ただけで、歴史の流れを知っている我々視聴者は、「どうする家康」が歴史上どんなターンに突入してきたか理解できた。

天下統一を果たした秀吉が次なる野望として明をターゲットとし、その足掛かりとして2度の朝鮮出兵を行うものの失敗、そして世を去る。後を受ける家康。そして台頭し家康に立ち向かわんとする、三成...。超ざっくりいえばそんなところだ。

40話の冒頭では前田利家、毛利輝元、上杉景勝、宇喜多秀家、そして徳川家康という5人の大老が、それぞれの名前と石高を記されたアップの止め絵で順に登場するという、まるでアイドルグループコンサートのオープニング映像のような演出で、秀吉亡きあとの日本を誰が動かしていくのか、歴史的にも"新章"に突入したことが印象づけられる。もちろんその主役は誰かといえば、ラストに登場した家康である。

そんななか最も注目すべきは、9月放送回に初登場し、「徳川様と同じ星を見ていると心得ております」と家康と夜空の星を見上げた石田三成(中村七之助)の心情の変化だ。

「どうする」版の三成は、とにかく「青い」。
ここまで信長、信玄、勝頼、秀吉らと渡り合い重ねた経験から「狸」となることで戦乱の世を生き延び駆け上がってきた家康に比べると、「力ではなく、知恵」と戦なき世への理想に燃える若者である三成は、勉強はできるけれども融通のきかない秀才タイプに映る。

秀吉の遺言のもと政治を動かす5大老、そして諸国の大名に頼られ、「天下人」と呼ばれ、その中心をなす家康。三成の家康への対立心は加速度的に「暴走」し始め、秀吉の正妻・寧々(和久井映見)の、
「あの子は真っ直ぐすぎる。世の中は歪んでいるものなのに」
という台詞が、それを物語る。

青い三成に対して家康はといえば、若者にとっては「狸」どころか神話に登場する怪物「オロチ」にすら見えるのではないか。まさに病床の利家が「皆、貴公が怖いのよ」と指摘した通りなのだろう。

「貴公は強くなりすぎた」
もはや家康は想像上の怪物のような脅威の存在なのである。しかし、実のところ家康の本質はずっと幼いころの「白兎」のまま。狸の皮をかぶることを会得しても、中身は弱く臆病な白兎のまま描かれている。41話の冒頭でもいまやすっかり心を許せる存在となった本多正信に肩を揉んでもらいながら、「狸はつらいのう」とためいきまじりに苦笑する場面も描かれた。そんな家康だからこそ、「どうする」の家康は、家臣団はじめ周囲に愛され信頼される存在なのだ。そして、「青さ」ゆえに周りが見えなくなり始めている三成には、それを感じ取ることはできなかった。

そんな青くピュアな三成に「(家康は)平気で嘘をつくぞ」と吹き込み、その気持ちに大きな影響を与えたように描かれるのが、茶々である。母である信長の妹・市と同じく北川景子が演じているので、市とそっくりの見た目であり、なおかつ「ダーン!」と冗談混じりに家康に銃口を向けるという信長の破天荒さもどこか感じさせ、さらには視聴者的には北川景子再登場と、さまざまな方向から家康や視聴者を撃ち抜いた衝撃的な初登場シーンを飾った。

「どうする」版の茶々は、秀吉の側室でありながら、時には秀吉を裏で操っているようにも見える存在として描かれる。先に記した三成への囁きも、何かの目論見ゆえというふうにしか見えない。三成サイドに軍資金を提供し、家康討伐の挙兵の盃も交わしている。そんなときに時折見せる不敵な笑みには背筋に冷たいものが走り、見ようによってはラスボス、戦乱の世を裏で操っていたのは実は茶々なのではないかとすら思わせられる。

41話の終盤、家康のもとに茶々からの手紙が届く。三成を討伐に仕向けておきながら、手紙には三成が勝手なことをして怖くてたまらない、なんとかしてほしいとしたためられていた。

手紙を読んだ家康はただただ乾いた高笑いをみせる。この笑いの真意はなにか。茶々のねらいを理解していての笑いなのか。

作中では暴走する秀吉を、「狐」に憑かれていると表現されてきた。秀吉に取り憑く狐、それが茶々であると見ることもできる。まさに水面下での狐と狸の化かし合い、心理戦。高笑いする狸。関ヶ原の戦いは、実は家康VS三成ではなく、家康VS茶々なのではないかという思いがどんどん強まってくる。

41話のラストでは「関ヶ原の戦いまで、あと53日」と、本能寺の変の時のようなテロップが映し出される。徳川家臣団も再集結、「どうする家康」で一貫して強調されてきた「戦なき世」を作り出すための戦、最大規模の戦が近づく。11月の「どうする家康」、いよいよ始まる天下分け目の戦いは、家康、三成、そして茶々の動きや心情がどう描かれるのか。迫るクライマックスに心が躍る。

文/太田サトル
 

太田サトル
ライター。週刊誌やウェブサイトで、エンタメ関係のコラムやインタビューを中心に執筆。

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