私たちは毎日身のまわりの「便利なモノ」のおかげで快適に暮らしています。でもそれらがどういう仕組みなのか、よく知らないままにお付き合いしていませんか?
身近なモノに秘められた"感動もの"の技術をわかりやすく解説します!
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●蛍光(けいこう)ペン
1970年代初めに開発された蛍光ペン。多くの人のペンケースに1本は入っているという人気商品に成長している。
発売当初、見たことのない鮮やかさと透明感を持つ蛍光ペンのインクの色に人々は感銘を受けた。それから40年、ペンケースに1本は入っている定番商品に成長している。
蛍光ペンのインクはなぜ光って見えるのだろう。それはインクの中に蛍光物質が含まれているからだ。蛍光物質とは、外の光を浴びて吸収し、固有の色に変換して光る物質である。その光を蛍光という。蛍光ペンのインクが明るく見えるのは、この蛍光の分だけ光が増えるからだ。
身近なところでは、蛍光物質は蛍光灯に利用されている。蛍光管の内側に塗られ、管の中で放射される紫外線を可視光(かしこう)に変換している。
また、LED(エルイーディー)照明でも利用されている。そこには青色発光ダイオードが使われているが、普及型の場合、青の光の一部は蛍光物質に吸収され、黄色の光に変換される。この黄色の光が元の青の光と混じり、白色になるのだ。
蛍光という言葉からホタルを連想し、自らが光ると誤解する人が多い。しかし、蛍光物質は自ら光ることはない。また、蛍光物質を含む塗料を蛍光塗料と呼ぶが、これも夜光塗料と混同されやすい。夜光塗料は光を蓄積(蓄光)する。夜光塗料が塗られた場所は蓄光によって暗所でも光る。時計の文字盤に利用されているので有名だ。
蛍光ペンで書いても下の文字が透けて見えるのは、サインペンに比べてインクの中の顔料や染料の量が少ないから。水彩絵の具を薄めて塗ると、画用紙の地が透けるのと同じ原理だ。
では、蛍光とまぎらわしい「ホタルの光」は何が光っているのだろう。ホタルが光るのは生物ルミネッセンスと呼ばれるもので、新世代テレビのパネルとして有名な有機EL(エレクトロルミネッセンス)のしくみと似ている。ある物質は電気や化学のエネルギーを受け取ると、特有な光に変換する。この現象をルミネッセンスと呼ぶが、ホタルはそのような物質を体内で合成しているのだ。
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涌井良幸(わくい・よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。教職退職後の現在は著作活動に専念している。貞美の実兄。
涌井貞美(わくい・さだみ)
1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程修了後、富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。良幸の実弟。