最初に老眼鏡をかけるのには誰もが抵抗を感じる。特に眼鏡をかけ慣れていない人が老眼鏡をかけるのには勇気がいる。そんな人に人気なのが遠近両用コンタクトレンズである。
このレンズ、当然1枚に遠視用とそうでないものとを組み合わせているのだが、その組み合わせ方がメーカーの特徴になる。実用化されている二つのタイプを調べてみよう。
一つ目は遠近両用メガネレンズを模したレンズである。中側から外側に向けて連続的にレンズの曲率を変え、遠視から近視までをカバーしている。
この方式では、遠くを見るときはレンズの中央部を、近くを見るときは、視線を動かして周辺部を使う。したがって、似た使い方をする遠近両用のメガネに親しんでいる人には使いやすい。しかし、近くから遠く、または遠くから近くを眺めるときには、視線を移動しなければならないため、老眼鏡と同様に不自然性な目の動きになる。また、明るさが急変したとき、瞳の大きさが変化して、今まで見えていたものが見えにくくなることもある。
二つ目は、遠視と近視のレンズが同心円状に幾重にも配置されるレンズである。不思議なレンズだが、人間の視覚のしくみを巧みに利用している。
このレンズで遠近を見分けられるのは、網戸越しに窓の外の木を見るのに似ている。外の木を見るときには脳はその遠くの木だけを認識し、近くの網戸の網は見えない。逆に網戸の網を見るときには、遠くの木は見えない。要するに、外を見るときには近くの画像を、近くを見るときには遠くの画像を脳が消してくれるのである。
この二つ目のタイプのレンズに慣れるには多少時間がかかる。しかし、慣れるといくつかのメリットが得られる。まず、遠近を切り替える際に、視線の移動がほとんど不要なことだ。老眼鏡を使うときのような、下目使いをする必要がないのである。また、明るさが急変しても、今まで見えていたものが見えにくくなることもない。
涌井 良幸(わくい よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。現在は高校の数学教諭を務める傍ら、コンピュータを活用した教育法や統計学の研究を行なっている。
涌井 貞美(わくい さだみ)
1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程を修了後、 富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校の教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。
「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」
(涌井良幸 涌井貞美/KADOKAWA)
家電からハイテク機器、乗り物、さらには家庭用品まで、私たちが日頃よく使っているモノの技術に関する素朴な疑問を、図解とともにわかりやすく解説している「雑学科学読本」です。