私たちは毎日身のまわりの「便利なモノ」のおかげで快適に暮らしています。でもそれらがどういう仕組みなのか、よく知らないままにお付き合いしていませんか?
身近なモノに秘められた"感動もの"の技術を、書籍『身のまわりのすごい技術大百科』がわかりやすく解説します!
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冷却パック
モノをこすったり叩(たた)いたりすると熱が出る。だが不思議なことに、冷却パックは「冷える」。いったいどうしてなのだろう。
手をこすると熱が出る。逆に冷たくなったら不思議だ。しかし、その逆の現象が起きる商品がある。「冷却パック」である。パックを折ったり、押しつぶしたりすると、熱が吸収されて冷えるのだ。
パックが周囲から熱を吸収する、つまり、「冷える」しくみを理解するには、理科の知識が必要だ。
化学反応には、発熱反応と吸熱反応がある。通常は発熱反応である。ガスに火をつけてお湯が沸くのは、発熱反応を利用したものだ。しかし、例外がある。例えば、塩を水に溶かすと、その逆の吸熱反応が起こるのだ。
この吸熱反応を利用したのが冷却パック(アイスパックとも呼ばれる)だ。パックの中には乾燥した硝酸(しょうさん)アンモニウムや尿素(にょうそ)、またはその両方の薬剤が水と分離されてパッケージされている。そのパッケージを押しつぶすと、分離されていた水と薬剤が混合して溶け合う。このときに吸熱反応が起こるのだ。
吸熱反応は、物質を構成する原子や分子が周囲から熱エネルギーを奪い、束縛(そくばく)から解放されることで起きる。固体が液体に自然に代わるときに、よく現れる現象だ。この吸熱反応は珍しいようにも思えるが、身近なところで見つけられる。例えば、ラムネ、ハッカ入りの菓子、キシリトールガムなどだ。食べるとスーッと感じるのは、吸熱反応を舌が感知しているからだ。
吸熱反応は、江戸時代末期にはすでに知られていた。アイスクリーム製造に利用されていたのだ。当時、江戸には氷はあったものの、アイスクリームを作るための低温(マイナス10度以下)の状態は作り出せない。そこで、氷に塩を多量にかけてよく混ぜ、それでアイスクリームの入った容器を包むと、塩と氷が融けるときの吸熱反応で、マイナス10度が達成できたのだ。
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