冬のアウトドアで使い捨てカイロは必需品だ。封を開けて揉むだけで暖かくなるのはほんとうにありがたい。最近は防災や節電の要請から、これと同様の製品も人気を呼んでいる。
使い捨てカイロの発熱の秘密は、鉄を錆びさせることにある。カイロの中身は鉄粉、活性炭、水や塩類などだが、この鉄粉を錆びさせる際の反応熱で暖をとるのである。水や塩類は鉄粉の錆びる反応を速めるため、活性炭は空気中の酸素を吸着して濃度を高め、鉄と反応しやすくするためにある。
最近はリサイクルできるエコカイロも人気だ。酢酸とナトリウムを反応させてできる酢酸ナトリウムが、本来の凝固点よりも低い温度で安定した状態を保つ特性を利用したアイデア商品である(この状態を過冷却という)。中にセットされた金属を押して刺激を与えると、成分の酢酸ナトリウムが一気に固まって熱を発散する。
カイロというと昔はハクキンカイロが有名であった。長時間使えて何度でも再利用できるため、現在でもファンが多い。ハクキンカイロは白金の触媒作用を利用している。この作用のおかげで、燃料のベンジンを低温で長時間燃焼させることができるのだ。
防災やアウトドアの利用という意味で、もう一つ有名な発熱商品を調べてみよう。「ヒートパック」「発熱パック」「加熱パック」などと呼ばれている商品である。火や電気を使わずに水を注ぐだけで、高温が発生して食品を加熱調理できるので、災害時には重宝する。駅弁についているものも人気で、紐を引くだけで中身が温まる。原理は単純。酸化カルシウム(生石灰ともいう)に水を混ぜることで高温を発生させているのだ。ちなみに、その反応で生成されるのが水酸化カルシウムである。消石灰とも呼ばれ、酸化した土をアルカリ化するためにも利用されるほど強塩基なので注意が必要だ。
最後に、老婆心ながらカイロは日本語「懐炉」のカタカナ表現であることに言及しておこう。
涌井 良幸(わくい よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。現在は高校の数学教諭を務める傍ら、コンピュータを活用した教育法や統計学の研究を行なっている。
涌井 貞美(わくい さだみ)
1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程を修了後、 富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校の教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。
「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」
(涌井良幸 涌井貞美/KADOKAWA)
家電からハイテク機器、乗り物、さらには家庭用品まで、私たちが日頃よく使っているモノの技術に関する素朴な疑問を、図解とともにわかりやすく解説している「雑学科学読本」です。