【らんまん】「本物」を知った田邊教授(要潤)の焦り、嫉妬...「持てる者」側の孤独が際立つ「構成力」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「田邊教授の孤独」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】神木隆之介の芝居にゾクゾク...様々なバトンタッチが描かれた希望溢れる「前半の最終回」

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長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第14週「ホウライシダ」が放送された。

万太郎(神木)と寿恵子(浜辺美波)の十徳長屋での新婚生活がスタート。一方、マキシモヴィッチ博士によりマルバマンネングサが新種と認められたことで、万太郎への注目度は一気に上昇。それは同時にいばらの道の始まりでもあった。そんな中、フォーカスされたのが田邊教授(要潤)の様々な顔だ。

万太郎が高知で珍しい植物を採集して来たと言うと、徳永(田中哲司)はみんながいる公の場ですぐに見せるようサポート。それを田邊が制止し、今後採集してきた植物は最初に自分に見せること、標本を持って家に来ることを命じる。

徳永や大窪(今野浩喜)、学生たちは、植物学雑誌創刊の際に田邊の"手柄横取り"体質を目の当たりにしているだけに、一様に田邊に向けられる警戒心と、ある種の蔑みのような目が何とも辛い。それでも田邊はそんな周囲の目に気づかないほどの焦りを抱えていた。

結婚祝いをしようという田邊の提案で、寿恵子と共に田邊家を訪れた万太郎だが、寿恵子と田邊の妻・聡子(中田青渚)が別室で過ごす間、万太郎は田邊に植物標本を見せる。すると田邊は万太郎の才能を称えつつ、新種の植物を見つけても万太郎には自分で発表する術がないと指摘。そして万太郎を「素人」と断じ、大学予備門に4年間通って東京大学を受験するか今すぐ留学すべきと提案する。

だが、万太郎は回り道する時間はないと拒否。すると、最後の提案として「私のものになりなさい」と言い放つ。それは、田邊専属のプラントハンターになることを意味していた。

しかし、万太郎はそれを拒否。すると田邊は顔を怒りでゆがませ、「小学校も出てない虫けらが! お前は私にすがるしかない!」と言い捨てるのだった。

本来は田邊の本性が見え、主人公の道を阻む「悪役」に見える瞬間だろう。しかし、感情的になることも、自分を卑下することもなく、真っすぐに相手を見つめ、植物への愛を語れる万太郎の強さの前に、一人感情をむき出しにする田邊はあまりに惨めに見えた。

小学校中退で何者でもなかった万太郎に植物学教室への出入りを許したときの田邊は、留学経験を生かして得意げに英語を話し、バイオリンを弾き、シェイクスピアを原書で読んで、豊かな教養と家柄・地位を持つ「何でも持っている人」に見えた。

植物の一生を描く絵を見て万太郎の「才能」を確信した頃からは、自分にとって使える駒だと思っていたのだろう。ところが、万太郎の植物標本が新種と認められる一方、自身がマキシモヴィッチ博士に送ったトガクシソウは新種と認めるには標本不足とされた。そこから田邊は会合などを減らし、植物採集旅行に出かけ、植物の道に真っすぐ進み始めた。

しかし、子どもの頃からずっと植物に全力で向き合っていた万太郎と、本気になったばかりの田邊が本来並ぶべくもない。

何でも持っていて余裕の態度だった田邊が、 "本物"万太郎との出会いにより、焦りや嫉妬を見せるのは、なんとも辛い。

しかも、田邊は教養豊かだった先妻を亡くし、学生あがりの若き妻・聡子を迎えていた。

聡子への愛情は見てとれるが、シダを愛する理由――花も咲かず種もつけず、地上の植物の始祖にして永遠という話を聡子は理解しない。一方、聡子は田邊自身が気づいていない、不器用な部分を可愛いと言い、愛してくれているのだが......。

妾腹の子で学校に通っていなくとも、長屋でもすぐみんなと打ち解け、聡子とも持ち前の明るさですぐに仲良くなれる寿恵子に対し、毬などの玩具を用意して距離を縮めようとしても子どもたちに母として認めてもらえない聡子の孤独。一方、小学校中退でも確かな才能を持ち、気づけばみんなに愛されている万太郎に対し、家庭にも植物学教室にも理解者を得られない田邊。「持てる者」側の孤独が際立つ対比だ。

そして、行き場をなくした万太郎のもとには、ミシシッピ川の治水工事の技師としてアメリカに行くという佑一郎(中村蒼)が訪ねて来る。万太郎が佑一郎に田邊のことを相談すると、佑一郎は博物館に相談することを提案。「訪ねていくところがあるゆうことも、自分の宝じゃき」という言葉が万太郎の道を照らす一方、ますます田邊の孤独を思わざるを得ない。

万太郎は里中(いとうせいこう)のいる博物館に向かうと、シーボルトの助手を務めた伊藤圭介の孫・孝光(落合モトキ)と出会う。実は田邊が新種として発表しようとしているトガクシソウは伊藤家が3代で研究してきて、先にマキシモヴィッチ博士に送っていたもので......

本来は万太郎の危機にハラハラする展開なのに、田邊の孤独がより気になる構成の巧さ・要潤の芝居が光る週だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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