【らんまん】神木隆之介の芝居にゾクゾク...様々なバトンタッチが描かれた希望溢れる「前半の最終回」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「希望溢れるバトンタッチ」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】脚本・演出・役者陣が醸し出す「品」にうっとり...視聴者への「信頼」を感じる上質な15分間

 【らんまん】神木隆之介の芝居にゾクゾク...様々なバトンタッチが描かれた希望溢れる「前半の最終回」 a9e5331066f17b991ea325ba5a40a386764034d8.jpg

長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第13週「ヤマザクラ」が放送された。今週は万太郎にとっての大事な人達との別れと、様々なバトンタッチが描かれた。

一つは、竹雄(志尊淳)から寿恵子(浜辺美波)への万太郎の"相棒"兼 "研究助手"のバトンタッチ。タキ(松坂慶子)とその右腕である番頭・市蔵(小松利昌)と妻で女中頭のふじ(石村みか)から、綾(佐久間由衣)と市蔵夫妻の子で綾の夫となる竹雄への「峰屋」のバトンタッチ。タキと万太郎の母・ヒサ(広末涼子)が命懸けで守ってきた「本家」ありきの時代の終わりと、分家ズとの雪解け。

そんな峰屋の人々を長く見守ってきた「ヤマザクラ」の病と生まれ変わる第一歩と......時代の変化は寂しく、しかし、希望に満ちている。

病状が悪化するタキだが、万太郎(神木)の発見した植物が新種として認められたことを知ったタキは、祝言を急ぎ、早く東京に戻るよう万太郎に伝える。

そんな折、寿恵子の花嫁衣裳のために訪れた呉服商・仙石屋の義兵衛(三山ひろし)からヤマザクラが病気だと聞いた万太郎は、なんとか助けたいと思い、夜通し研究に励む。

その頃、綾は土佐中の酒屋で組合を作ることを考え、竹雄と共に奔走するが、女であるがために誰も相手にしてくれない。帰り道に寄った神社で、長い手足を、少女の頃と同じように投げ出して寝転び、弱音を吐く綾。しかし、竹雄は「あなたがうまいうまいゆうて飲んどったら、それが最大の寿ぎじゃ」「呪いじゃない、祝いじゃ」「酒の女神じゃ」と言う。そして狛犬越しの詩的で美しいキスシーンへ。

一方、研究に没頭すると食事も睡眠もとらなくなるのは、万太郎の子どもの頃からの悪いクセ。しかし、万太郎に「邪魔」と言われて傷ついた寿恵子は、綾と竹雄に相談。裕福ではなかったものの、愛情深く育てられた寿恵子の"育ちの良さ"が、自分の思いを真っすぐ口にできることや、どんな時も揃ってご飯を食べていたという発言に滲む。

そんな寿恵子を誘い、竹雄は万太郎と共に横倉山へ行き、寿恵子に植物採集や標本作りの方法を教える。私に務まるだろうかと不安を漏らす寿恵子に竹雄が笑顔で言った「務まらなくて当たり前ながじゃ」の安心感。草花の申し子・万太郎が息をするようにわかることが、自分にはわからない、だから努力してきたこと、一緒にいたい思いからだったことを打ち明ける。一方、万太郎は二人の言葉をヒントに、田邊(要潤)や野田(田辺誠一)らに手紙で助けを求めるのだった。

そして、いよいよ「槙野姉弟が好きすぎる井上竹雄」の旅立ちの儀式がやって来る。竹雄から話があると言われた瞬間、顔を少し曇らせ、体をこわばらせる万太郎。ずっとこのまま竹雄を自分に縛り付けているわけにはいかないことを、万太郎もわかっていたのだ。

綾と夫婦になりたい、もう東京には戻らないつもりだと言われたときの、涙を流しながら笑顔で言った「お別れじゃあ」と言う神木隆之介の芝居にゾクゾクする。こんなにも天真爛漫な笑顔で明るく切なく別れを告げられる俳優って、他にいるだろうか。対する志尊淳の鼻を赤くした本気泣きがウェットなのも良い。

そしていよいよ万太郎と寿恵子の祝言の日。万太郎が今後槙野家の一切を綾と竹雄に譲ると伝えると、分家の豊治(菅原大吉)らは憤慨。「本家を守る」という使命を全うして来たタキの"正義"の一方、ずっと見下されてきたという分家の憤りはもっともだ。

しかし、タキはこれまでの態度を詫び、今後は互いに手を取り合い、商いに励んで欲しいと頼み込む。タキはかつて「峰屋」「本家」を守るという使命で生きていた。そこには深い愛情があったが、やがてそうした「使命」よりも孫と、その人生を尊重する選択に変わっていったのだろう。そうしたタキの思いが届いたのか、万太郎と寿恵子の鏡割りのときに豊治の息子で最も傷ついているはずの伸治(坂口涼太郎)が誰より嬉しそうに盛り上げてくれていたのが、なんだか愛おしく見えた。

そして後日、万太郎はタキを連れてヤマザクラを見に向かう。ヤマザクラを救うことはできなかったという万太郎にタキは「天寿」だと言うが、接ぎ木で生まれ変わるという希望を得て、嬉しそうな表情で「らんまんじゃ」と呟く。

かつて病弱なヒサと、ヒサが命がけで産んだ病弱な万太郎、そんな万太郎にもしものことがあったときのための保険として引き取られた本家筋の綾と4人で見上げたヤマザクラ。その命が天寿を終えようとしている今、タキの周りには、あの頃よりももっとたくさんの希望に満ちた家族――万太郎、綾、竹雄、寿恵子がいる。

この構図だけで、タキの人生がいかに幸せで豊かなものだったかがよくわかる非常に良いシーンで、希望に溢れる前半終了だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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