【どうする家康】「殿はきっと大丈夫」視聴者号泣の「胸アツ展開」と武田信玄(阿部寛)の圧倒的存在感

日本史上の人物の波乱万丈な生涯を描くNHK大河ドラマ。今年は、松本潤さんが戦国乱世に終止符を打った天下人・徳川家康を演じています。毎日が発見ネットでは、エンタメライター・太田サトルさんに毎月の放送を振り返っていただく連載をお届け。今月は「武田信玄の圧倒的存在感」について語っていただきます。

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】信長(岡田准一)のツンデレが炸裂...!「涙」からの「耳噛み」に視聴者動揺

【どうする家康】「殿はきっと大丈夫」視聴者号泣の「胸アツ展開」と武田信玄(阿部寛)の圧倒的存在感 morita_05@.jpg

松本潤主演のNHK大河ドラマ「どうする家康」。本作は戦国の世を終わらせ江戸幕府を築いた徳川家康の生涯を、古沢良太が新たな視点で描く作品だ。本記事では5月放送分を振り返る。

「殿は、きっと...大丈夫」
夏目広次(甲本雅裕)が第18話のクライマックスで放ったこのセリフに、涙腺が崩壊した視聴者も多かったのではないだろうか。
このセリフが登場するまでの大きな背景として、家康はもちろん、織田信長にとっても大きな脅威である武田信玄(阿部寛)の存在がある。

とにかく、信玄は強い。
第16話はタイトルから「信玄を怒らせるな」で、家臣も「戦となれば、10に9つは負けましょう」と言う。信玄勢が戦闘態勢に入るときにズラリとならぶ、赤い軍勢の数の多さ...。映像ひとつで、圧倒的かつ絶対的脅威が、家康を、そして視聴者を絶望させる。

本作の武田信玄は、阿部寛が常に余裕たっぷりに演じてきたことで、その「大きさ」を印象づけてきた。しかも信玄は、強いだけでなく、人間としても器の大きい人物として描かれているから「圧倒的」なのだろう。

たとえば第16話、「人質」として武田へ送っていた家康の義弟の源三郎(長尾謙杜)を救い出す場面。なにか思惑がありそうな信玄は「行かせてしんぜよう」と余裕を見せ、しかも全身傷だらけでぐったりする源三郎に「具合はいかがか」と気遣いも見せた。

さらに、戻ってきた源三郎の様子に「人質にひどい仕打ちをするとは」と激昂する家康に、源三郎は「それは間違いでございます」と告げる。甲斐の侍たちは、皆、日々厳しい鍛錬を受けている。源三郎も同じ鍛錬を受けていただけだと。
「むしろ、私がいちばん優しく扱われ......」
満身創痍の源三郎にそう言わせることで、武田軍の圧倒的武力と、信玄の人間性の大きさをさらに強くアピールする。

これほどの相手に勝てるわけがない...それでも戦わなければならないのか...。
そこで源三郎の口から伝えられる家康へのメッセージ。
「生き延びたければ、我が家臣となれ」
やはり"お約束"的に、家康は決断をあぐねる。どうする? そして、こういうところからの「アツい」展開は、本当にうまい。

あいかわらず半泣きで「決められぬ」という弱き主君に対して、「信玄の家臣になったほうがマシかもしれない」「領地も信玄にくれてやりましょう」と、嫌味のように開き直る家臣たち。家康は「10に9つは負けるんだ」と言うが、ここで本多平八郎(山田裕貴)が、決意に満ちた目で「10に1つは......勝てる」と言う。

現に織田信長は桶狭間でやり遂げた。全員が心に決めた揺るぎない決断を見せていく。信長には、何一つ及ぶものがない。しかし、「その代わりに、殿にはこの家臣一同がおります」。知恵と力を合わせれば、信玄にも立ち向かえる。

...なんだこの胸アツ展開。主君と家臣の関係でありながら、熱い友情も感じさせるような展開。知恵と力を合わせて、巨大な敵に立ち向かう。完全にバトル漫画展開だ。

そして迎えた三方ヶ原合戦では、冒頭の夏目広次のセリフにつながる、さらなる胸アツ名演出が繰り出される。

武田軍に追い込まれ、身を隠していた家康のもとへ現れた夏目広次。この描写を、幼少時代の回想シーンと重ね合わせる演出の上手さ。回想シーンで広次は、ピンチに陥った幼少期の家康に「若をお守りします。若はきっと、大丈夫」と告げていた。
そして三方ヶ原合戦に場面は戻り、広次は家康に「金の具足」を脱げと言う。自分が家康の身代わりになり、家康を逃がそうというのだ。すべてを察した家康は必死で抵抗するも、広次は告げる。
「今度こそ......殿をお守りいたします。殿はきっと、大丈夫」
回想シーンをはさみ、「若」を「殿」に置き換えて同じセリフを重ね合わせていく演出。そして広次もまた、守るべき者のために散っていく。

これまでも、今川氏真や鵜殿長照など、その去り方、散りざまをドラマチックに描いてきた本作。この夏目広次の犠牲もまた、視聴者の涙腺を崩壊させた。さらに圧倒的巨人・武田信玄は、病によって倒れるという事実でありながらドラマチックな展開で、美しい甲斐の自然の中、琵琶の音とともに静かにこの世から去っていくという、戦いの中散った者とは対照的な描かれ方がなされた。

この先も本能寺の変、関ヶ原と、数々の別れが家康の前に訪れる。それぞれの散りざまが、どう描かれていくのか。本作の大きな注目ポイントができた気がする。

文/太田サトル
 

太田サトル
ライター。週刊誌やウェブサイトで、エンタメ関係のコラムやインタビューを中心に執筆。

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