【らんまん】サブタイトル「ユウガオ」に込められた意味が響く...朝ドラ視聴者が心を一つにした第11週

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「サブタイトルの意味」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】かつての朝ドラが陥った「残念」を次々と回避!「取材力」と「咀嚼力」が光る脚本の巧さ

【らんまん】サブタイトル「ユウガオ」に込められた意味が響く...朝ドラ視聴者が心を一つにした第11週 pixta_12435627_M.jpg

長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第11週「ユウガオ」が放送された。

毎週植物の名をサブタイトルとする本作において、今週は特にその意味が幾重にも響く見事な構成となっていた。

妻を「つまらん女」「妻というだけで、女でなか」と言う元薩摩藩士の実業家・高藤(伊礼彼方)は、子どものできない弥江(梅舟惟永)と離縁し、寿恵子(浜辺美波)を迎え入れるつもりであることがわかる。妻への侮辱的発言も、寿恵子を「文明開化の時代の女性」と言いつつ、女性を自分の思うままにする道具としてしか見ていない矛盾も腹立たしく、視聴者が"万太郎待ち"で心をひとつにする快感が一つの柱だ。

そんな万太郎(神木)は「植物学者」として寿恵子を迎えに行くため、昼は大学で研究、夕方からは大畑(奥田瑛二)の印刷所で働き、植物学雑誌創刊の準備を全速力で進める。ある日、竹雄(志尊淳)が働く店に寿恵子と高藤がやって来て、寿恵子を高藤家に迎えたいという話をする。返事のリミットは、舞踏練習会発足式の日だ。菓子屋の娘という身分を見下し、良家の養女にしてから嫁がせる話を本人の意思不在で進める男たちにイライラが募る。

しかし、万太郎ができるのは、自分で自分を認められるよう、石版印刷の技術を一刻も早く向上させること。ついに納得のいくレベルになり、大畑とイチ(鶴田真由)に植物学雑誌の印刷を注文する万太郎だが、一方で、田邊教授(要潤)は植物学雑誌の出来が悪ければ全て燃やすつもりでいた。それを知った助教授・徳永(田中哲司)は怪訝な表情を見せ、まだ論文を書いていない学生たちに直ぐに書くよう促す。

そんな徳永は、夕顔を眺める万太郎にフラフラと近づき、「夕顔が好きだ。源氏物語に出てくるから」と、自身が本当は日本文学好きであることを打ち明ける。万太郎がそれに同意して「特に万葉集」と言うと、徳永は「朝顔は朝露負ひて咲くといへど」と上の句を言い、万太郎が「夕影にこそ咲きまさりけれ」と継ぐ。好きなモノを通して心が通じ合う美しいシーンだ。

東大において「学生」でもない万太郎は「異質」な存在だ。にもかかわらず、光が当たらぬ場所で利用されつつ、好きなことに純粋に打ち込む万太郎の姿に、教授の陰で懸命に働いてきた自身を重ねたのだろうか。植物学教室の中で文学好きの自分を「異質」と感じるからこその「夕顔」への愛情なのだろうか。

本作の巧さは、教室の中で当初は最も万太郎を疎ましそうにしていた徳永が、急に善人に「豹変」したわけではないこと。思えば、徳永は正規ルートを踏まずに教授に気に入られ、教室に入ってきた万太郎に対しては当たりが強かったものの、学生と会話するシーンは多く、距離は感じられなかった。一方、学生たちの会話から不気味さが見えてきたのは、最初に万太郎の味方に見えた田邊教授のほう......。

いよいよ植物学雑誌が完成。万太郎の絵を見て画工・野宮(亀田佳明)が言った「これは画家の絵じゃありません。植物学者の絵です」は、万太郎にとって最大の讃辞だ。田邊もその出来栄えを認めるが、手柄を横取りする発言に徳永の顔が、大窪(今野浩喜)、野宮、そしてこれまでの経緯を見てきた学生たちの顔が曇る。この反応は痛快だが、万太郎の純粋さ・天真爛漫さの周りにどんどん仲間ができてくる中、田邊の「孤立」が欲望をモンスター化させそうで不安な展開でもある。

ついに雑誌創刊を経て、万太郎と竹雄は大畑夫妻に一世一代の依頼をする。万太郎の「釣書」をすぐにでも持っていきたい大畑だが、仏滅で縁起が悪いとイチに止められ、翌日の大安に白梅堂へ。しかし、この日は舞踏練習会の発足日だった。

寿恵子は堂々とダンスを披露するが、高藤の本心――鹿鳴館が日本を西欧諸国に進出し、認めさせるための「目的ではなく手段」であることを知ると、その手を振りほどく。そして、身分を気にしているというピントのずれまくった解釈をする高藤に、生まれ変わる必要などない、両親を恥じたこともない、西洋の"乗馬"を学ぶ中で亡くなった父も「よその国に出て行くため」ではなく「分かり合うため」だと言い、申し出をきっぱり断り、立ち去る。トドメは、笑顔の弥江の言葉「男と女が対等とおっしゃるけれど、あなたはすぐそばにいる女さえ目に入っていない」「どうぞお好きなだけお仲間と踊ってらしたら?」だ。そして、寿恵子は万太郎のもとへーー。

夕暮れの長屋に真っ白なドレス姿で現れた寿恵子の眩しさ。「ユウガオ」は最初、『源氏物語』になぞらえた、寿恵子と、寿恵子を見初めた高藤と妻・弥江の構図に思えた。しかし、薄暗い中で光り輝く寿恵子であり、万太郎であり、徳永であり、おそらく夫に「女」として見られず、何者にもなれない思いを抱えていた弥江でもあったろう。

何度でも見返したくなる深い深い11週だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

PAGE TOP