夫婦の間には、潤滑油になる「言葉」がある/大人の男と女のつきあい方

pixta_36252143_S.jpg40歳を過ぎ、しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実。しかし、年齢を重ねても、たとえ結婚していても異性と付き合うことで人間は磨かれる、と著者は考えます。

本書『大人の「男と女」のつきあい方』で、成熟した大人の男と女が品格を忘れず愉しくつきあうための知恵を学びませんか?

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「言葉」、それが最高の潤滑油になる

夫婦関係というのは、高級ブランドの革製品のとり扱いに似ている。
はじめの頃は、もともと自然に含まれるオイル成分の効果で、大した手入れをしなくてもいい状態のままだ。とくに、いい革製品は耐久性がある。よほど手荒な扱い方さえしなければ、そうそう傷むものではない。やがて革はなじんできて、衣服なら自分の体にフィットしてくる。私も10年近く前に気に入って購入した皮ジャンを持っているが、いまでもよく着用している。

ただ、最低限のメンテナンスは怠らない。好きで長く着つづけたいなら、定期的に保湿オイルで拭いてあげなければならない。夫婦生活もまさにそれである。ある日、知り合いのカメラマンが電話をかけてきた。相談があるという。口数の少ない男なので、どれほど深刻な悩みなのかはわからない。とりあえず会って話を聞いてみることにした。

「実は......」
どうやら夫婦の問題のようだ。結婚して一五年。なかなか子宝に恵まれなかったが、八年目にして長男が、二年後には長女が誕生した。それを機に極力、早い帰宅を心がけるようにしたという。
最初に気づいたのは、家事と育児に追われている奥さんの姿だった。ヤンチャ盛りでいうことを聞かない子どもたち、それを相手に奮闘している姿を見ているだけで、彼女の大変さが伝わってきた。もともと寡黙な男なのだ。

「ゆっくり休ませてあげたいと思い、気を利かせて、あまり話しかけないようにしていたんです。本当にそういう気持ちだったんですけど......」
彼の胸の内とは裏腹に、奥さんの態度が冷淡になってきた。そこで、解決するいい方法はないものかと、私に相談してきたのである。

「それはあなたが悪い。簡単なことだ。好きだといえばいいだけだ」
「いまさら、そんなこといえないですよ」
「いいからやってみろ」
彼の気遣いを、奥さんは「相手にしてくれない」と受けとったと推測したからである。一カ月ほどたっただろうか。彼から再び連絡があった。
 
「どうだったんだ?」
「はい、子どもたちが寝たあとに女房の背中越しにですけど......。あんなに緊張したのはいつ以来だったか、でも、何とかいえました。『いつもありがとう、愛してるよ』と」

「あら、そう」
奥さんからの返事はそれだけだったという。だが、寡黙な夫の照れながらの精いっぱいの告白は彼女の心に届いたようだ。

「その日から女房の態度が変わりました。家に帰ってもまるで無反応だったのに、それ以後は『パパが帰ってきたよ』と。そうすると子どもたちが玄関まで迎えに来るんです。食事中の会話も増えました。気のせいかもしれないんですが、昔に比べて、笑顔が多くなったようにも感じます。いうまでには、相当勇気がいりましたけど、本当によかったです」

人間というのは、もともと飽きっぽくて怠惰である。皮ジャンなら買ったばかりの頃はうれしさのあまり、細かい汚れを落としたり、保護用のスプレーを塗ってみたりと、マメに手を加える。だが、年月とともに手入れをされず、放っておかれた革ジャンは、ひび割れが起きたり、カビが生えたりと劣化してしまう。そして、着るときになってあわてる。

同様に、新婚当初は夫も妻も好きだから相手に気を使う。だが、だんだん、妻は夫の前で着替えも化粧も平然とするようになり、夫は妻の前でオナラをしても知らん顔。

それを防ぐ手立てというのは、実はとても簡単。要は手入れを怠らないこと。保革油を塗り、昔の状態に戻してやればいいのだ。それは男女の場合、言葉だ。それも単純なひと言でいい。だが、長年連れ添った夫婦だと、次第に言葉をかけなくなる。
「ごめんなさい」「これ、うまいね」「好きだよ」。
夫婦の間には、それぞれ潤滑油になる言葉があるのだ。それを使えばいい。
だが、このカメラマン氏、そのひと言を伝えるために妻の後ろに立ち尽くした時間は、なんと二時間だったそうだ。ちょっと助走が長すぎる。お疲れさまである。

「そんなこと、改めていわなくたってわかっているじゃないか」
それは男の勝手な言い分。
もとはアカの他人である。男の胸の内は、ときに、しっかりと言葉にして口に出さなければ伝わらない。わかっていても聞かなければ気がすまないのが妻なのである。もちろん、つきあいの長い恋人同士にもいえることだ。

「レストランで食事をしている夫婦の様子を見なさい。二人が押し黙っている時間の長さは夫婦生活の長さに比例する」
フランスの賢人はそういった。そういえば行楽地へ行く列車のなかでも、ほとんど会話のない中高年男女は夫婦である。しかし、言葉を必要としない関係はちょっと寂しいではないか。

 

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川北義則(かわきた・よしのり)
1935年大阪生まれ。1958年慶應義塾大学経済学部卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。文化部長、出版部長を歴任。1977年に退社し、日本クリエート社を設立する。現在、出版プロデューサーとして活躍するとともに、エッセイスト・評論家として、新聞や雑誌などに執筆。講演なども精力的に行なっている。主な著書に『遊びの品格』(KADOKAWA)、『40歳から伸びる人、40歳で止まる人』『男の品格』『人間関係のしきたり』(以上、PHP研究所)など。

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『大人の「男と女」のつきあい方』
(川北義則 / KADOKAWA)
「年齢を重ねても、たとえ結婚していたとしても、異性と付き合うことによって、人間は磨かれる」というのが著者の考え。しかし、40歳を過ぎてから、 しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実です。 本書は、成熟した大人の男と女が品格を忘れず、愉しくつきあうための知恵を紹介。 いつまでも色気のある男は、仕事も人生もうまくいく!

この記事は書籍『大人の「男と女」のつきあい方』からの抜粋です

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