年も病も超えて...男は女性の感触を忘れられない生き物/大人の男と女のつきあい方

年も病も超えて...男は女性の感触を忘れられない生き物/大人の男と女のつきあい方 pixta_38555572_S.jpg40歳を過ぎ、しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実。しかし、年齢を重ねても、たとえ結婚していても異性と付き合うことで人間は磨かれる、と著者は考えます。

本書『大人の「男と女」のつきあい方』で、成熟した大人の男と女が品格を忘れず愉しくつきあうための知恵を学びませんか?

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男は女性の感触を忘れられない

つい最近、頸椎(けいつい)の手術で入院した友人を見舞いに行ったときのことだ。大学病院の脳外科病棟である。術後一週間を経過して四人部屋のベッドに横たわる友人は、首の保護のためにネックカラーを装着してはいるものの、思っていたよりも元気そうだった。

「よく眠れる?」
差し障りのないところから、切り出した。
「いや、実はね」
と、彼は斜め前のベッドで眠る初老の男性にそっと視線を向けた。何やら困ったことがありそうだ。話しづらそうな表情がうかがえたので、面会室で話すことにした。友人の話はこうだ。

彼の斜め前にいる男性は、度重なる脳出血の後遺症でさまざまな障害が発生した。現役時代は霞が関の超エリートで、事務次官を狙えるとさえ噂された人物だった。不幸なことに脳出血によって、知的な能力が著しく減退したのだという。脳の損傷による症状はいろいろな形で表れる。この老人の場合、言語能力は失っていないが、手に障害がないにもかかわらず牛乳瓶のふたをとれない。バナナの皮をむくことも忘れてしまっている。
つまり、生まれてから学習したことの一部がすっぽりと抜け落ちてしまったのだ。苦心して、歯で試みるのだが、うまくいかないらしい。

そして、友人にとっていちばんの悩みは、その老人が未明にハーモニカを吹きはじめることと、夜中に自分のベッドを抜け出し、友人のベッドの傍らに座っていたりすることなのだという。
知的能力の回復を願う家族が、大好きだったハーモニカがきっかけになればと置いていったらしい。だが、同室の入院患者にすれば、これはつらい。すぐに宿直のナースが車椅子に乗せてナースステーションに連れていくのだが、一刻も早く退院して現場復帰したい友人にしてみれば、静養の妨げになる。ましてや、夜中に目を覚ますと、隣に誰かが座っているとなれば、おちおち眠れない。

「そうか、何とかならないものかな」
私の言葉に、彼は気をとり直したように続けた。
「彼もかわいそうなんだよ。知性をつかさどる脳が決定的なダメージを受けたらしい。でもね、昼間、奥さんが来ているときはおとなしいんだ。それは、先生もナースも首をかしげるんだよね。それにね、脈をとりにきたり、熱を測りにくるナースのお尻は必ず触っているんだ。それも美人のナースだけを狙ってね。これも、医療スタッフの間では不思議がられている」
不謹慎とは思ったが、私は笑ってしまった。

病気によって、一般的な知的能力にダメージを受けたにもかかわらず、女性への関心だけは健在であるという男性の姿を想像して「人ごとではないぞ」とも思ってしまった。
この男性に、そもそも女性のお尻を触る性癖があったのか、それとも元気な頃には抑えていた潜在的な欲求が、病による知性の喪失によって解き放たれたのかは知る由もない。だが、女性の感触を求める欲求が健在であることに、ある種の感動さえ覚えてしまった。

この所業、患者の回復のために日夜奮闘する白衣の天使にとっては、傍(はた)迷惑な話ではあるが、病気のなせるワザということで笑ってすますナースもいれば、真剣に怒り出すナースもいるのだという(お触りの対象にならないナースの声は聞き漏らしたが......)。

だが、人間の脳はやはりすごい。次第にこのヤンチャな老人は「寛容なナース」と「厳格なナース」の区別がつきつつあるのだとか。
いささか強引な結論になってしまいそうだが、やはり男性にとっては、いくつになっても女性はなくてはならない存在であることの証明ともいえるエピソードではないだろうか。

ちなみに、先の男性に二度と触らないように、ナースがいい聞かせる言葉があるそうだ。
「〇〇さん!奥さんにいいつけるわよ!」
この言葉で、ヤンチャなセクハラはピタリとやむそうである。

「男はいくつになっても」という話で、思い出したエピソードがある。以前、遺伝子と生命についての対談を取材したとき、当時110歳を超える長寿男性の愉しみが、とにかく若い女性に会うことだったと聞いた。
彼の長寿にあやかって、若い母親が子どもを連れて「長寿参り」に訪れるのだ。彼は、そんな母親たちと一緒に酒を飲むのを愉しみにしていた。この長寿男性にとって、生きているだけで人の役に立っているのが生きがいだったという。

ただ、このご老人、この年齢で、身のまわりの世話をしてくれるヘルパーの若い女性に、そばにあった物差しで「スカートめくり」をすることもあったそうだ。本当に男は、いくつになっても女性に触れていたい困った生き物であることも確かだ。

 

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川北義則(かわきた・よしのり)
1935年大阪生まれ。1958年慶應義塾大学経済学部卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。文化部長、出版部長を歴任。1977年に退社し、日本クリエート社を設立する。現在、出版プロデューサーとして活躍するとともに、エッセイスト・評論家として、新聞や雑誌などに執筆。講演なども精力的に行なっている。主な著書に『遊びの品格』(KADOKAWA)、『40歳から伸びる人、40歳で止まる人』『男の品格』『人間関係のしきたり』(以上、PHP研究所)など。

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『大人の「男と女」のつきあい方』
(川北義則 / KADOKAWA)
「年齢を重ねても、たとえ結婚していたとしても、異性と付き合うことによって、人間は磨かれる」というのが著者の考え。しかし、40歳を過ぎてから、 しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実です。 本書は、成熟した大人の男と女が品格を忘れず、愉しくつきあうための知恵を紹介。 いつまでも色気のある男は、仕事も人生もうまくいく!

 
この記事は書籍『大人の「男と女」のつきあい方』からの抜粋です

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