女はなぜ、何十年も前の「昔話」を蒸し返すのか?/大人の男と女のつきあい方

女はなぜ、何十年も前の「昔話」を蒸し返すのか?/大人の男と女のつきあい方 pixta_22594982_S.jpg40歳を過ぎ、しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実。しかし、年齢を重ねても、たとえ結婚していても異性と付き合うことで人間は磨かれる、と著者は考えます。

本書『大人の「男と女」のつきあい方』で、成熟した大人の男と女が品格を忘れず愉しくつきあうための知恵を学びませんか?

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女にとって「男の罪」に時効はない

結婚して何十年もたった夫婦が、ちょっとした喧嘩がきっかけで、こんなたぐいの昔話をむし返す、という話を聞いたことはないだろうか。

「20年前、あなたとお義母さんと箱根に行ったとき、私がパスタを食べたいといったのに、あなたはお義母さんに味方しておそばがいいといって、私の希望を聞いてくれなかったわよね」

「私が出産したばかりの金曜日、あなたは朝の三時に酔っ払って帰ってきたわよね。シャツに口紅をつけて」

こう出られては返す言葉もない。一瞬うろたえてしまうが、とぽけようと思ってうろたえるのではなく、そもそも何のことか覚えていないのである。男性の"頭のなかの日記"は女性よりはるかに空白が多い。それに比べて女性の日記は、過去の印象的な出来事は、はっきりと書き込まれているらしい。

私が人一倍の健忘症だからという理由からではない。これは私にかぎったことではなく、多くの男たちとの会話のなかでよく出てくる話なのだ。
おおむね、男性は過去を振り返ったり、思い出したりするのは苦手だ。頭のなかで過去の出来事は、いわば「仮死状態。」一方、女性にとって過去はいつでも現在進行形の「成長途上」なのだろう。

「何で女はあんな古い話をよく覚えていて、突然、持ち出すのかねえ」
「まったくだ」
ふだんは意見の合わない男たちでも、この件に関してだけは瞬時に同意する。

「この前、朝ごはんを食べていたら、突然、女房が思いっ切り私の頭をフライパンでドツくんですわ。『何でや!』って聞いたら、10年くらい前の私の浮気のことを、突然思い出して無性に腹が立ったいうて......。私、翌朝からヘルメットかぶって朝ごはんですわ」

すでに亡くなった上方の夫婦漫才師が派じていたネタだ。以前、何げなくテレビで見て思わず大笑いした。ずいぶん昔の話なのだが、このネタばかりは、忘れっぽい男の私でもよく覚えている。

幸い、結婚して40年以上にもなる私の妻は、結婚記念日も同居を始めた日も覚えていない、という大らかなタイプなので助かるが、それでも、ときどき私の記憶にはまったくない「そういえば、あのときあなたは......」をいい出すこともある。

そんなとき、男はいったいどうすればいいのか。
間違いなくいえることは、反論したり否定してはいけないということだ。ことを荒立てて、それをきっかけに別れようというのであれば絶好のチャンスかもしれないが、穏便にことを運びたいなら、彼女の回顧録に無条件でつきあってあげるにかぎる。

「そういえば、そうだったね」たしかにオレが悪かった。」相手の主張にうなずきながら、すべてを認めること。
「そうだったかな?」違うんじゃない?」という言葉は厳禁だ。いくらかでも疑問や否定のニュアンスがあると、火に油を注ぐ結果になりかねない。たとえ相手が白を黒といっても、そのときは黙って黒だと認める。自分がやっていないと記憶していることでも、女性の記憶のなかではやったことなら、それも認めてしまうことだ。
 
つまり、女性が回顧録をひもときはじめるときは、苦労した自分、孤軍奮闘した自分の過去を再現したいだけなのだ。
そんなとき、男性はよき理解者を演じるにかぎる。大クライアントを前にした納入業者、下請け業者の顔をしていればいい。どちらが正しいかなどはどうでもいいこと。「御説、ごもっとも」がいちばんなのである。とにかく嵐が過ぎ去るまでじっと我慢なのだ。下手に反撃しようものなら戦線はますます拡大し、「だから、あなたはダメなのよ」と人格攻撃にまで発展する。

要は相手の過去の思い出を耐え忍んで聞くことに尽きる。「そんなことがあったかどうか」の記憶の正誤、「どちらが正しいか、正しくないか」を検証しても、何の役にも立たない。これはアダムとイプの時代からの儀式と心得ること。
あのとき、こういった、こんなことがあったなど、過ぎ去った過去のことで言い争いをしてもしかたがない。すべて女性の言動を肯定するにかぎる。せいぜい「そういえば、そんなことがあったっけ」くらいですますのが無難。夫婦関係にかぎらず、男女関係でも同様である。

女性は過去を大切にし、誰もが自分史の作家としては有能だ。その相手とのつきあいを続けたいのなら、世の男性は女性との性差の違いとして認めるしかない。ただし、この回顧には、残念ながら時効はない。ほとぽりが冷めたと思って安心していると、ある日突然、また逮捕状が突きつけられることもある。女は死ぬまで忘れないのだろう。

  

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川北義則(かわきた・よしのり)
1935年大阪生まれ。1958年慶應義塾大学経済学部卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。文化部長、出版部長を歴任。1977年に退社し、日本クリエート社を設立する。現在、出版プロデューサーとして活躍するとともに、エッセイスト・評論家として、新聞や雑誌などに執筆。講演なども精力的に行なっている。主な著書に『遊びの品格』(KADOKAWA)、『40歳から伸びる人、40歳で止まる人』『男の品格』『人間関係のしきたり』(以上、PHP研究所)など。

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『大人の「男と女」のつきあい方』
(川北義則 / KADOKAWA)
「年齢を重ねても、たとえ結婚していたとしても、異性と付き合うことによって、人間は磨かれる」というのが著者の考え。しかし、40歳を過ぎてから、 しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実です。 本書は、成熟した大人の男と女が品格を忘れず、愉しくつきあうための知恵を紹介。 いつまでも色気のある男は、仕事も人生もうまくいく!

 
この記事は書籍『大人の「男と女」のつきあい方』からの抜粋です

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