定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師で作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「体内時計のリズムを整えて、睡眠の質を高めよう」です。
70歳以上の女性の4人に1人が睡眠薬を服用
なかなか眠れない、ちょっとした物音で目が覚めてしまう、疲れが取れず、日中に眠くなる......そんな睡眠の悩みはありませんか。
日本では約2000万人が睡眠障害を抱えているといわれますが、そのなかには加齢にともなって増えるものもあります。
高齢者が睡眠の悩みを抱えやすいのは、睡眠を促すメラトニンというホルモンの分泌が少なくなるため。
また、運動不足になりがちで、適度な疲労が得られないため、寝つきが悪くなるのも原因です。
睡眠時無呼吸症候群や皮膚搔痒症(※1)、むずむず脚症候群、認知症などの病気のほか、親しい人との死別など心理的なストレスが不眠の原因になっている場合もあります。
日本疫学会の調べでは、睡眠薬の服用率は、日本人成人の7・4%といわれ、若者よりも高齢者に多く、男性よりも女性の服用率が高いことがわかりました。
70歳以上の女性では4人に1人が、80歳以上の女性では3人に1人が睡眠薬を服用しているという実態もあります。
想像以上に多くの人が睡眠薬に頼っていることに驚かされます。
※1 発疹や湿疹がないのに、皮膚にかゆみが生じる病気。
睡眠薬を使うときは服用期間と量に注意
睡眠薬をむやみに恐れる必要はありません。
日常生活に支障をきたす睡眠障害は、睡眠薬が大きな味方になります。
しかし、長期間服用する場合は要注意です。
睡眠薬は次第に効きが鈍くなり、量も種類も増える傾向にあります。
睡眠薬の量や種類が増え、ないと不安になると「依存性」。
その状態に体が慣れてしまい、急に薬を止めるとひどい不眠や頭痛などが起こることがあります。
ぼく自身も睡眠薬の経験があります。
年に数回、イラクやチェルノブイリへ子どもの診察に行っていたとき、時差ボケに悩まされました。
これがきっかけとなり、日常的に睡眠薬をのむようになったのです。
はじめは、短時間だけ作用する軽い薬を、寝つきの悪いときにのみましたが、徐々に習慣化。
しばらくすると効かなくなり、作用時間が長い薬や、別のタイプの薬を組み合わせてのむようになりました。
しかし、量が増えるにつれ依存性が心配になり、半年ほど時間をかけて薬の量を2分の1、4分の1......と減らすことにしました。
鎌田式熟睡法で、薬に頼らなくても眠れるように、生活習慣も変える努力をしました。
この行動変容が功を奏し、若いときよりいい睡眠が得られるようになったのです。
ぼくが服用していた睡眠薬。すべて離脱できました。
スマホのアプリ「熟睡アラーム」(有料。無料版もあり)で毎日の睡眠状態をチェック。6月は、睡眠薬少量。一晩のいびきは7分間。「入床リズム」と「深い睡眠」と「美容」に関係する成長ホルモンが分泌される時間帯(眠り始めの3時間ぐらい)に、熟睡できていませんでした。
8月に入ると、いびきは0分となり、「肥満予防」のコルチゾールが分泌される時間帯(夜中の3時以降)に深い睡眠になっています。完璧。
体内時計を整える5つのポイント
いい睡眠は、いい生活リズムから生まれます。
朝起きると、交感神経が優位になって体温や血圧が上がり、夜になると副交感神経が優位になって体温も血圧も下がり、睡眠に至る。
こうした睡眠と覚醒のリズムや交感神経と副交感神経のリズムと密接にかかわっているのが、体内時計です。
体内時計をリズムよく動かせば、いい睡眠も得られるということです。
次の5つをぜひ、実践してみてください。
(1)朝、太陽の光を浴びる
体内時計には、脳にある親時計と、体中の臓器にある子時計があります。
体内時計は一日約24・5時間周期で動いており、地球の一日の長さ24時間とずれがあります。
朝、光を浴びると、脳にある親時計のずれがリセットされ、夜、睡眠を促すメラトニンを分泌します。
よい睡眠づくりは、朝の光から始まっているのです。
(2)朝食をしっかりとる
朝食をとると、体内時計の子時計がリセットされ、代謝が動き出します。
朝食でとったエネルギーは、日中の活動に使われるため、日中に充実度を高めます。
(3)日中は、積極的に運動する
いい睡眠には、適度な疲れが必要です。
特に、メラトニンの分泌が少なくなった高齢者は日中、活動的に過ごすことが"睡眠薬"になります。
ウォーキングや、自分の体重を利用したスクワットやランジ(※2)などの自重筋トレなどを行いましょう。
また、ストレッチは交感神経と副交感神経のバランスを整え、よい睡眠に導きます。
ただし、夜になってから運動すると、メラトニンの分泌を妨げるため、運動は夕方までにすませ、夜はできるだけゆったり過ごします。
※2 足を前後に大きく開いて、股関節とひざ関節の曲げ伸ばしを行う運動。
(4)昼寝は20分以内に
長時間、昼寝をすると、夜になってなかなか眠気が起こりません。
昼間の仮眠は20分程度にしましょう。
列車や飛行機などの移動中はついつい眠くなりますが、ぼくは寝すぎないように、まずコーヒーを飲んでから、スマホのアラームをセットし、20分で起きるようにしています。
カフェインの覚醒作用が、寝すぎるのを防いでくれます。
(5)週末の夜更かしは2時間以内に
休日は羽を伸ばし、お酒を飲んだり、夜更かしして映画を見たりする人も多いでしょう。
2時間以上夜更かしをすると、体内時計が乱れ、元に戻すのに時間がかかります。
基本的には、平日も休日も同じ時間に起床し、就寝するようにしましょう。
睡眠に悩みがある人は、眠りにばかり着目しがちですが、睡眠は日中の過ごし方の"合わせ鏡"です。
できるだけ日中の過ごし方を充実させるようにしながら、睡眠薬を常用している人は主治医に相談して、薬の量を減らせるかどうか検討してみるとよいでしょう。
よい睡眠は、体や心の疲れ、ストレスをやわらげ、うつ予防や肥満予防、高血圧予防にもなります。
もちろん、肌も若々しくなります。
健康的に年を重ねていくためにも、リズムよく暮らし、よい眠りを実現してください。
【カマタのこのごろ】
ぼくが代表を務めるNPO日本イラク医療支援ネットワーク(JIMNET)では、「Coffee for Peace!」キャンペーンを行っています。カルディコーヒーファームの協力で、オリジナルの絵をデザインしたドリップコーヒー2つとスペシャルカードのセットを550円で販売。このうち300円がJIM-NETの活動資金になります。 黄色い鳥と花のイラストを描いてくれたのは、共に地中海性貧血という難病を患う姉妹。JIM-NETハウスで仲良く絵を描いていました。残念ながら二人とも亡くなりましたが、自分たちの絵が役立つことを喜んでいました。ご協力をお願いいたします。問い合わせはJIM-NETのホームページ(jim-net.org)へ。