【ちむどんどん】矢作と「まさかやー」な再会! 井之脇海さんの芝居に涙...の一方で気になる「謎行動」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「『矢作』という人物」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】ニーニーの"ねずみ講"騒動、和彦の「ヒモ化」疑惑...まだ遠い「ちむどんの夜明け」

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本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第20週。

義兄・賢秀(竜星涼)のねずみ講騒動の影響で新聞社をやめた和彦(宮沢氷魚)と、開業準備を進める中、妊娠が発覚した暢子(黒島結菜)。

前途多難な状況が続く中、沖縄では唐突に良子(川口春奈)が学校給食改革に熱中していた。

すぐに仕事を投げ出してはあちこちに借金ばかりする賢秀とも、料理人になると言って上京し、イタリア料理修行をしながら沖縄料理の店を開くという暢子とも共通する、"マイブーマー一族"の血の濃さを感じる。

そんな中、房子(原田美枝子)は妊娠中の暢子の体を気遣い、開店に反対するが、開店を諦めない暢子に対し、3つの条件を提示。

房子は基本的に良い人だが、毎度「絶対反対!→すぐに受け入れ、条件を出す」パターンを凝りもせず繰り返す甘さが、若干不安な人でもある。

房子が提示した「条件」の一つは、店の味を任せられる料理人を雇うこと。

ここで再登場となったのが、スタッフを引き連れて突然フォンターナをやめ、自身の経営する店がうまくいかず、借金を抱えてフォンターナに現れ、店の売上金と権利書を盗んで逃げた元従業員の矢作(井之脇海)だ。

しかも、再会は、なぜか矢作が鶴見で食い逃げしたとき。

矢作という人物のわからなさは、思えば常に視聴者をザワザワさせてきた。

『ひよっこ』好演組の竜星涼と井之脇海が、本作ではとんだダメ男として登場することをどうにも飲み込めない人が序盤には多数いたこと。

特に井之脇については、一瞬ヒロインの相手役じゃないかと期待した人すらいたくらいで、にもかかわらず「嫌なヤツ」→「知ってみたら、もっと嫌なヤツ」→「犯罪者」という救いのなさに、肩を落とした人も多かった。

ただし、若きベテラン・井之脇を出しておいて、単なる嫌なヤツで消えるはずもなく、やがて暢子が独立する際の強い味方になるのだろうとは思ったが、再登場がなぜかフォンターナでもなく、鶴見というわからなさ。

しかも、食い逃げで押さえつけられたとき、髪が乱れ、役作りのためなのか心なしか少しやつれたように見える姿が、どういうわけか以前より色気を大幅に増していた。

暢子に再会した矢作は「まさかやー!」と叫ぶが、荒んだ矢作のビジュアルの良さに不覚にもときめいてしまった視聴者がSNS上で散見されるという「まさかやー!」の展開である。

暢子は自分の店で料理人をやってくれと矢作に頼むが、断られ、それでも矢作を諦めず。

暢子がなぜそこまで矢作に執着するのかは謎だったが、実は暢子がフォンターナに来た当初、沖縄そばを振る舞った際、真っ先に「うめえ!」と言ってくれたのが矢作だったことが決め手だった。

暢子の店を訪ね、パパイヤを千切りしながら涙をにじませる矢作。

井之脇のナチュラルな泣きの芝居の上手さに、ついグッときそうになるが、店の売上金や権利書を盗んだ上に、料理人を諦めていなかったからと言って、いつでも包丁を持ち歩いていることも、沖縄料理のことをよく知らないのに、そばの太さにこだわりを見せることも、やっぱりいろいろどうかと思う。

矢作が再会時に「まさかやー」と言ったこと、沖縄料理について上から目線で注文をつけたことなどから、実は沖縄出身だった説、妻が沖縄出身説などもSNSで出ていた。

しかし、「まさかやー」はフォンターナ時代からときどき言っていたし、なんなら暢子が店に客として来たときに「まさかやー」とイジッていた。

つまり再会のときの「まさかやー」は「まさかこんなところで暢子に会うとは!」ではなく、矢作の心の中の暢子のあだ名が「まさかやー(まさかやーさんとか、まさかやー女とか)」で、それがそのまま声に出てしまったのではないか。

いずれにしろ、矢作の嫌なヤツ具合は基本的に変わっていなかったところには少しホッとした。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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