【ちむどんどん】姉の"お古"って...描かれた「大人のゲス会話」と描かれない「暢子の妊娠」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「朝ドラヒロインの妊娠」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】矢作と「まさかやー」な再会! 井之脇海さんの芝居に涙...の一方で気になる「謎行動」

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本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第21週。

今週は暢子の店「ちむどんどん」の開店準備~オープン2カ月後までが描かれた。

いよいよ佳境かと思いきや、お仕事描写は薄く、恋バナが軸となる週でもある。

料理人として雇われた矢作(井之脇海)は料理以外のことは一切やらないと言い、妊婦である暢子の働き過ぎを心配した優子(仲間由紀恵)と良子(川口春奈)は、歌子(上白石萌歌)を手伝いとして東京に派遣。

すると、矢作が唐突に歌子にデレてみせたのも驚きだが、さらに視聴者を凍り付かせたのは、歌子の歓迎会の場で沖縄県人会の仲間が「智(前田公輝)は暢子ちゃんにフラれたから、妹の歌子ちゃんに乗り換えたわけ?」「姉のお古、お下がりの智と」と発言したこと。

この仰天の会話が普通に交わされるあたり、この界隈ではこうした噂話が日常茶飯時なのだろう。

とすると、暢子は「愛(飯豊まりえ)ちゃんのお古の和彦(宮沢氷魚)を」と、それどころか多江(長野里美)などは長きにわたって「房子(原田美枝子)のお古の三郎(片岡鶴太郎)を」と噂されてきたに違いない。

大人たちのこうしたゲスな話を間近で聞いてきた子どもたちは、きっと酒の席が嫌いになるだろう。

8月22日放送分で三郎・多江に子どもがいることが説明ゼリフだけで明かされたが、もしかしたら2人の子は、こうした大人の酒を嫌って寄り付かなくなったのだろうか。

そんな中、智が事故で「瀕死の重体(※ドラマのセリフママ)」という連絡が。

これは伝言ゲームで話が大きくなって伝わったものだが、病室を訪れた暢子の第一声は「智、生きてるわけ?」。

あまりに無神経な暢子にも、それを笑いにすることにも、そもそも事故までも歌子と智の距離を近づけるための「恋愛の肥やし」とする展開にも、SNSでは批判が相次いでいた。

一方、東京に出張した賢秀(竜星涼)と清恵(佐津川愛美)はフォンターナを訪れ、清恵の元カレらしきクズ男と遭遇。

暢子がいなくなっても、相変わらずフォンターナの周りには金と暴力が引き寄せられている。

それにしても、暢子が店を出す大事な時期に、清恵の元カレまで引っ張り出して、「恋愛」をたっぷり描く必要があるのかは謎だが、朝ドラではこれまでも仕事そっちのけで、恋愛にばかり比重が偏る作品が多数あったし、そこに盛り上がる層も一定数いた。

その一方で、描写が非常に薄いのは、暢子の妊娠だ。

妊娠は非常に個人差が大きいものだが、とはいえ、本来は流産など様々なリスクが高い妊娠初期に周り中に妊娠を平然と公表し(ある意味暢子らしい)、つわりや眠気、だるさなどは全くなく、それでいてお腹がぺたんこの時期から腰に手を当ててしんどそうにしていたかと思えば、突然臨月のようなお腹になる不思議。

そして、リスクの高い時期には冷たかった矢作が、安定期に入って優しくなる不思議。

これも「目に見えるものしかわからない=お腹が大きいほうが大変! 危険!」という、ある種の男性のリアルだが......。

ちなみに、朝ドラでは妊娠をほぼ描かず、突然出産し、お母さんになるのも1つの定番。

もともと朝ドラヒロインは、性の香りがあまりしない優等生タイプが多く、生々しい描写が避けられてきたのだろう。

しかし、近年は妊娠・出産をリアルに描く作品がドラマ全体に増え、朝ドラでも『スカーレット』『おちょやん』など、綺麗ごとじゃない部分を生々しく描く作品が評価されている。

視聴者がリアリティを望む声も多いだけに、そろそろ「コウノトリが赤ちゃんを運んでくる」的朝ドラの妊娠・出産は転換期に来ているのかもしれない。

ところで、オープン直後は賑わった店は、2カ月すると赤字に転落。

その展開は、重子(鈴木保奈美)の言葉「前に毎日届けてくれたお弁当のほうが、今日のお料理よりおいしかったような」が予言していたが、これは妊婦である暢子の味覚の変化によるものなのか、それとも「東京の人の口にも合うようにいろいろ工夫して」が敗因なのか。

オープン直後は物珍しさで賑わうが、次第に閑古鳥という展開は、暢子がおでん屋台をやったときと同じだが、その理由が次回明かされる。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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