毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「朝ドラヒロインの成長の法則」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
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本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第10週。
今週は、二ツ橋シェフ(高嶋政伸)の退店騒動と、歌子(上白石萌歌)の検査のための上京が描かれた。
二ツ橋シェフといえば、暢子(黒島結菜)の大おばであることが発覚する前あたりからにわかに優しくなったオーナー・房子(原田美枝子)と対照的に、最初から暢子に味方してくれていた存在。
一方、歌子は、借金のハードルが低すぎる&無鉄砲で周囲を巻き込みまくる比嘉家において、唯一内省的なキャラとして描かれてきた。
そんな彼らを軸に物語がどう展開するのかと思いきや...。
厨房の花形・ストーブ前を狙っていた暢子は、房子から2週間後に新メニューを考えたらストーブ前を認めると告げられる。
そんな中、二ツ橋シェフは実家に帰って家業を継ぐよう親に言われ、退職願を出したが、房子が止めてくれないことにショックを受け、鶴見の「あまゆ」を訪れて大荒れ。
実は二ツ橋は房子にかつてプロポーズしたが、房子は戦前に結婚する予定だった三郎(片岡鶴太郎)を忘れられないという「因縁」の三角関係が見えてくる。
一方、歌子は病欠の多さを気にして退職。
しかも、何かと気にかけてくれ、暢子に気があるかに見えた花城(細田善彦)が、よりによって暢子の退職挨拶直後に、その傍らで同僚との結婚を発表。
恋愛感情以前に主役の場を瞬時に奪うデリカシーのなさはいかがなものか。
さらに歌子を傷つけるのは、検査前日の上京後の「あまゆ」でのどんちゃん騒ぎだ。
歌子が片思いする智(前田公輝)と久しぶりに再会したにもかかわらず、当の智は暢子と盛り上がっているのは仕方ないにしても、上京での移動疲れや検査前の緊張・不安を抱える妹と付き添いの母・優子(仲間由紀恵)を店の入り口付近に座らせ、内輪でわいわい楽しそうにする暢子のデリカシーのなさよ。
暢子はおそらく恋に鈍感ではなく、人の気持ちに鈍感なのだ。
もしかしたらこれまで歌子の自己肯定感を奪って来たのは、大騒ぎしては周りを巻き込みながら常に自身が真ん中にいくタイプの兄や姉たちではなかったかと考えてしまう。
しかも、検査の結果、歌子の発熱の理由はわからないまま。
すっかり塞いでしまった歌子はなぜ自分だけ熱が出るのかと嘆き、自分は幸せになれないし、自分がいないとみんながもっと楽になれると投げやりに言う。
すると、珍しく優子が激昂し、歌子だけでなく、みんなうまくいかないときはあると言い、「幸せに生きることを諦めたらダメ。いつか生きててよかったと思える日が来る」と諫めるのだった。
驚いたのは、「その日」が直後にやって来たこと。
歌子の好物・イカスミジューシーを暢子が作ると、歌子は「生きてて良かった」とにっこり。
そのイカスミジューシーをヒントに暢子は新メニューのイカスミジューシーパスタを作り、ストーブ前を房子に認められる展開に。
正統派の高級イタリアン料理店のアッラ・フォンターナが、創作料理に意欲的なのも驚いたが、まさかイカスミパスタを考案したのが暢子だったとは。
さらに優子が房子を訪ね、賢三(大森南朋)と房子の「因縁」も解消。
復員後に房子の店を手伝っていた賢三は、沖縄に戻って出直してくると言ったまま戻らなかった。
裏切られたと思った房子はひどい手紙も書いたが、賢三が結婚したことを、ずっと後に知ったのだと言う。
お世話になった親戚に結婚の報告もしていなければ、暢子を引き取ってもらう予定をドタキャンした謝罪も、おそらくこの場が初めてという比嘉家の不義理・筆不精ぶりはいかがなものか。
それが「因縁」とされてきた房子があまりに気の毒でもあり、親しき仲にも礼儀ありということを改めて教えられる。
そして、二ツ橋は暢子のおかげで大切なことに気づかされたと言い、退職を翻し、店に残ることに。
歌子や二ツ橋の苦悩も、暢子が新メニューを考案して次のステップに進むためのタスクに見えかねないが、それは朝ドラの長い歴史上では決して珍しくないこと。
多くの朝ドラヒロインは、死屍累々、モブキャラたちの苦悩を栄養にして成長していくことを改めて思い出させられる第10週だった。