【カムカムエヴリバディ】胸を打つ「語られ、受け継がれてきたこと」と「語られなかったこと」の対比

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「胸を打つ"対比"」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】それぞれの「暗闇」から「ひなたの道」へ? 名ゼリフが響く回収劇の幕開け

【カムカムエヴリバディ】胸を打つ「語られ、受け継がれてきたこと」と「語られなかったこと」の対比 pixta_79395054_S.jpg

ラジオ英語講座を軸に、3世代ヒロインの100年の物語を紡ぐ、藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の20週目。

今週は、「トランぺッター錠一郎(オダギリジョー)」のその後と、るい(深津絵里)と伯父・算太(濱田岳)の再会、るいへのクリスマスプレゼントを残した算太の死、家族を連れたるいの岡山への数十年ぶりの里帰り、叔父・勇(村上虹郎→目黒祐樹)との再会、ジャズ喫茶「DippermouthBlues」の登場、「50回目の終戦の日」が起こした奇跡...と、様々なことがつながってくる。

ひなた(川栄李奈)と弟・桃太郎(青木柚)の「あわれ合戦」に参戦した錠一郎は、自分がかつてトランぺッターで、デビュー寸前だったのに、突然吹けなくなった過去を明かす。

「いつかまた吹けるのではないか」「作曲家になるのではないか」と思っていた視聴者も少なくないだろう。

しかし、その後吹ける日は来なかったし、桃太郎が生まれたあたりからその気持ちも消えていったと言い、こう語る。

「それでも人生は続いていく」

そして、クリスマスイブの日、10年ぶりに大月家にやって来た算太は、るいが幼い頃に突然姿を消した日、何があったかを訪ねられ、「よう覚えておらん」と言う。

だが、「あかにし」でケチ衛門(堀部圭亮)を見て岡山を思い出し、商店街でダンスした後、倒れてしまう。

そして、るいに「わしが悪いんじゃ。すべてわしが。安子は何も悪くねえ」と言い、クリスマスプレゼントとして2冊の通帳を託して亡くなるのだった。

そんな算太の死を機に、錠一郎の提案で、家族で岡山の雉真家に里帰りするるい。

そこで、雪衣(岡田結実→多岐川裕美)から、算太が突然消えた理由や、母・安子(上白石萌音)が「たちばな」再建で頭がいっぱいだったことを聞く。

さらに、錠一郎とるいは、二人の思い出の場所と同じ名前のジャズ喫茶「DippermouthBlues」へ行き、定一の後を継いだ息子・健一(世良公則の2役)から、安子と父・稔(松村北斗)のデートの話などを聞く。

さらに、るいは稔が安子にくれた英語の辞書と、ひなたは安子とるいが使っていた「カムカム英語」のテキストと出会い、50回目の終戦記念日が2人にある奇跡を見せる。

ひなたのもとに現れたのは、「カムカム英語」の平川先生(さだまさし)。

ラジオを通して、時空を超え、歴史の証人として日本の敗戦をラジオで伝えたあの日あの時がそのまま語られる。

そして、安子が戦地の稔の無事を日々願い続けた神社の境内を歩くるいの隣には、戦死して一度も会うことのなかった父・稔の姿が。

稔は言う。

「どこの国とも自由に行き来できる、どこの国の音楽でも自由に聴ける。自由に演奏できる。るい、お前はそんな世界を生きとるよ」

そして、るいは安子を探すため、アメリカに行きたいと決意するのだ。

ところで、るいと安子を結び付ける重要な展開がメインで描かれる一方、惹かれるのはひなたと桃太郎のおおらかさである。

父の重い告白を、最初は冗談としか2人が受け止めなかったことも、突然現れた算太の事情を勘ぐることなく「親戚」として嬉しそうに迎えたことも、初めて訪れた雉真家で、桃太郎がすぐに居間でくつろぎ、大おじとともに高校野球中継に夢中になったり、キャッチボールをして恋バナをしたり、ひなたが自身のルーツを探るべく段ボールをあさったりすることも、実にのびのびしていて、人に対する壁がない。

そんな2人に育ったのは、幼少時からの苦労や辛い過去を背負ってきたるいと錠一郎が、子育ての中でそれを全く語らず、感じさせてこなかったからこそではないだろうか。

そして、父親そっくりになった吉右衛門が、病床で懐かしそうに目を細める算太にかけた言葉「あんたがラジオ盗んだ朝に生まれた吉右衛門じゃ」からは、それが赤螺家で「笑い話」として語り継がれてきたことがわかる。

さらに、本作唯一の悪役に見えた雪衣が、勇とともに誰もいなくなってしまった橘家の墓の世話を継いでくれていたこともわかる。

「語られ、受け継がれてきたこと」と「語られなかったこと」の対比が胸を打つ週だった。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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