毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「つながりの妙」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】胸を打つ「語られ、受け継がれてきたこと」と「語られなかったこと」の対比
ラジオ英語講座を軸に、3世代ヒロインの100年の物語を紡ぐ、藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の21週目。
今週は、様々な扉が開いた週。
るい(深津絵里)が18歳で大阪に出て以来、初めて岡山に里帰りしたことを機に、祖母・安子(上白石萌音)のことがひなた(川栄李奈)らに語られたこと。
ひなたがラジオの英会話で英語の勉強を再開し、祖父・稔(松村北斗)の英語の辞書をるいから受け継いだこと。
桃太郎(青木柚)が雉真家から岡山の大学に行くようになったこと。
そして、錠一郎(オダギリジョー)がトミー北沢(早乙女太一)と再会し、吹けなくなったトランペットではなく、鍵盤で音楽活動を再開、ピアニストになったこと。
さらに錠一郎のマネージャーがわりをするようになったるいが、トミーのバンドでアメリカに行く錠一郎に同行し、母探しを始めたこと...。
努力が報われるとは限らない。
しかし、「日々鍛錬し、いつ来るともしれない機会に備えよ」という伴虚無蔵(松重豊)の言葉通り、機会は思いがけないときに、思いがけない形で現れる。
それがトランペットに挫折した錠一郎にとってのピアノであり、映画村で外国人観光客への案内から、ハリウッド映画の撮影チームがやってくることになり、その案内という大役を任されるまでになったひなたにとっての英語だ。
また、今週ラストで久しぶりに登場した、ひなたのかつての恋人で元大部屋俳優の五十嵐(本郷奏多)もきっと日々鍛錬してきたものがあるのだろう。
いつ来るかわからない「機会」は、本人がひたむきに目指していた場所ではなく、ちょっと視点を変えたことにより、自然に流れ着いた場所というのも、面白い。
しかし、それぞれが鍛錬し続け、新しい扉を開く一方で、「停滞」や「残念な愛おしさ」が描かれるのもまた、本作らしい。
その一つが、好青年そのものの榊原(平埜生成)が優柔不断なために一恵(三浦透子)を悩ませ、挙句、酔ったすみれ(安達祐実)を背負ったまま、ひなたの家でプロポーズしたこと。
さらに、あれだけ英語力がついて、仕事で活躍しているひなたが、1999年に30代にしてノストラダムスの大予言の「恐怖の大王」を気にしていること。
恐怖の大王云々で盛り上がったオカルトブームは実際にはだいぶ前の時代で、1995年の阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件のない世界線だとしても、オカルトブームにハマったひなたと近い世代の人たちは、すでに1999年当時にはほとんど誰も気にしておらず、後から「そういえば、何も起きなかったね」と思い出す程度だったはずだから。
そんな中、立派に成長しても、子どもの頃のまま根本的に変わらないのが、ひなたなのだ。
そして、散々引っ張ってきた「恐怖の大王」話は、「驚きの女神」として、映画製作チームでキャスティングディレクターを務めるアニー・ヒラカワ(森山良子)につながっていく。
アニーはひなたに言う。
「英語の勉強を続けてください。それはあなたを思いもよらないところに連れて行ってくれますよ」
これは、かつてロバート(村雨辰剛)が安子に言った言葉だ。
そして、るいは母探しで行ったジャズの本場・アメリカにおいて、飛び入り参加で「On The Sunny Side Of The Street」を歌うという、思いもよらぬ行動に。
そんなステージ上に連れて行ったのもまた、英語が生んだつながりだ。
それはひなたと五十嵐も思いもよらない場所に連れて行くことになるのだろうか。
放送は残り2週間。
つながりの妙を存分に味わいたい。
文/田幸和歌子