毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「3世代ストーリーのうねりの中心人物」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】朝ドラでは「正念場」? ひなたの平和な萌芽期が見せた「偉大なるマンネリ」
3世代ヒロインの100年の物語を描く藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の17週目。
安子編、るい編、ひなた編と幾重にも重なり合う登場人物たちの歴史が、今週はいよいよ"三層"となり、立体感を増してきた。
その立体的なうねりの中心にいた人物は......
条映太秦映画村でのひと夏のバイトを経て、自分の道を見つけたひなた(川栄李奈)は、映画村に就職。
そんな折、モモケンこと桃山剣之介(尾上菊之助)が条映太秦映画村のCMに出演することに。
しかも、撮影現場で口出ししてきたのは、謎の振付師「サンタ黒須」なる人物。
...どう見てもひなたの祖母・安子の貯金を持ち逃げした兄の算太(濱田岳)である。
まさか、でもあり、やっぱり、でもある。
目指していたダンサーではなく、振付師として何やら箔をつけて登場した算太。
しかも二代目・モモケン襲名前の団子郎からくる「ダンゴちゃん」で呼ぶ親友だ。
さらに、初代モモケンの遺作『妖術七変化 隠れ里の決闘』が再び映画化される話が出ると共に、主人公・棗黍之丞と剣を交える小野寺左近役をオーディションで選ぶことが発表される。
実はオリジナル版はモモケンが親子共演する予定だったが、映画一筋の初代と、テレビの世界に拠点を置いた二代目が決裂。
当てつけのように大部屋俳優の伴虚無蔵(松重豊)が二代目の代理に抜擢され、映画は大失敗に終わっていた。
初代は亡くなり、虚無蔵は大部屋俳優に逆戻り...二代目はテレビ時代劇のスター街道を歩んで行ったという因縁があるのだった。
思えば、商店街で錠一郎(オダギリジョー)が見ていたテレビの二代目モモケンは「コンコンチキチキ?」とかいう珍妙なフレーズと動きを披露していたが、あれも算太のしわざだったのか......。
いかにも「これからはテレビの時代だ」などと調子の良いことを言っていそうではある。
だとしたら、算太は安子(上白石萌音)とるい(深津絵里)だけでなく、初代と二代目モモケンも引き裂いた張本人かもしれない。
その一方で、仲をつなぐ役割も果たす。
ひなたの質問をはぐらかすためにくれた『妖怪七変化』のリバイバル上映のチケットを、五十嵐(本郷奏多)が欲しがったことで、2人は映画デートに。
安子と稔(松村北斗)、るいと錠一郎と、3世代に渡る映画デートで、しかも観るのは必ずモモケンの黍之丞シリーズ。
そのつながりだけでも美しいのに、同じモノを愛するひなたと五十嵐の熱量・リアクションのシンクロぶりは、過去2代をはるかに上回る。
そして、食事もとらず、回転焼きも買わずに我慢するほどお金がないのに、ひなたにポップコーンを買ってくれたり、家までちゃんと送ってくれたりする五十嵐の意外な紳士ぶりが発覚。
しかも、東京出身で、親に仕送りしてもらわず、夢に向かって頑張っていることもわかる。
空腹で倒れて、大月家で食事をご馳走になる五十嵐の姿が、竹村クリーニング店でご馳走になっていた錠一郎と重なることも印象深い。
また、困った若者を放っておけず食事を振る舞うるいも、るいを助け、錠一郎に食事させてくれた竹村夫婦とも重なる。
るいは「大阪での育ての親」からも大事なことを引き継いでいるのだ。
そして、不器用で、何をやっても続かなかったひなたが、オーディションに向かう五十嵐を応援するため、熱々の回転焼きを焼く。
毎日仕事から帰ると一生懸命練習していたというひなたも、ほんの少しだけ口元をゆるめてそれを受け取る五十嵐も、まるで小学生の恋のようで微笑ましい。
いよいよオーディション。
モモケンと虚無蔵の因縁あり、虚無蔵と愛弟子・五十嵐との対決もあり。
安子と稔、るいと錠一郎など、様々な関係性を思わせてきた主題歌『アルデバラン』のフレーズ「君と私は仲良くなれるかな」が、ひなたと五十嵐を包み込む。
残るは、安子とるい、二代目モモケンと虚無蔵、亡くなった初代と二代目モモケン、そして安子と算太......。
最も根深くややこしい肉親の因縁になってきた。
文/田幸和歌子