話しかけても反応がない夫と、どう暮らしていけばいいのか――。アスペルガー症候群のパートナーと結婚し、家庭を築いていく難しさから次第にうつ状態(カサンドラ症候群)となったシニア産業カウンセラーの真行結子さん。自身の体験から、「自分らしい夫婦の形を実現させることが大切」だと気づかされました。そんな真行さんの著書『私の夫は発達障害?』(すばる舎)から、いい夫婦関係を保つヒントを連載形式でお届けします。
©アライヨウコ
カサンドラに多く見られる傾向
私はカウンセリングやカサンドラへの支援活動を通じて、数多くのカサンドラたちの肉声に耳を傾けてきました。
そこで気がついたのは、育った家庭(原家族)では「ありのままの自分を受け入れてもらえなかった」「家庭が安全な場所ではなかった」と語るカサンドラが少なくないことでした。
語られる体験には、両親の不仲、虐待、否定、無関心、親の価値観の押しつけなどがあり、「自分に自信が持てない」「自分は何がしたいのかわからない」「自分ひとりでは生きていくことができないと思う」「自分の理解者がいない」「人を頼れずひとりでがんばってしまう」「さみしくてたまらない」といった訴えが多く見られます。
彼女たちのなかには、夫や家族と共依存状態に陥っていたり、アダルトチルドレン(AC)傾向を持つ方が多いように感じます。
アダルトチルドレンとは、「安全な場所として機能しない家族(機能不全家庭)のなかで育ち、そのためにさまざまな人間関係の問題や、生きづらさを感じている人たち(※)」のことを言います。
カサンドラ症候群同様、医療における診断用語、病名ではありません。
(※)『アダルト・チルドレン癒しのワークブック』西尾和美・著(学陽書房)から一部引用。
アダルトチルドレン五つのタイプ
アダルトチルドレンは、成育歴から五つのタイプに分類されると言われています。
関心のある方は、次のチェックシートを試してみてください。
アダルトチルドレン(AC)セルフチェックシート
これは、『アダルト・チャイルドが自分と向きあう本』(アスク・ヒューマン・ケア)に掲載されていたチェックシートを一部変更したものです。
HERO(英雄)
□学校では、いつもよい成績をとれるよう努力していた
□「しっかりした子」とほめられるよう努力していた
□周囲のまとめ役をつとめるため努力してきた
□責任感が強いと感じる
□息抜きをしたり、無邪気になって遊ぶのが苦手
□ミスや失敗をすると、ひどく自分を責めて落ち込んでしまう
□もっともっと努力しなければと、いつも自分を追い立ててしまう
□他の人の失敗でも、自分の責任のように感じる
□周囲に能力を評価されなかったら、自分の価値が感じられない
SCAPEGOAT(身代わり)
□親や教師に反発や怒りをぶつけてきた
□ルールを無視した行動で、自分の存在を目立たせようとする
□「悪い子」と言われたり、態度で示されて傷ついてきた
□あなたが問題を起こすと、両親は今までのいさかいなどを忘れて、一緒にうろたえたり、叱ったり、解決に奔走していた
□怒りにまかせて相手を非難攻撃することが多い
□自分のさみしさや傷をわかってくれる人など、誰もいないと感じる
□自分なんかどうでもいいと感じることが多い
□ちょっとしたことで周囲との関係がこじれてしまうことが多い
LOST CHILD(忘れられた子)
□家庭でも学校でも、なるべく目立たないよう行動してきた
□「素直な子」とほめられるよう行動してきた
□自分の存在が忘れられているように感じてきた
□大勢のなかにいるより、ひとりきりで過ごすほうが好きだ
□自分を表現したり、意見を主張するのが苦手だ
□孤独感を感じることが多い
□自分はいなくてもよい存在なのではないかと感じることが多い
□人生に生きる意味があるなんて思えないことがしばしばある
CLOWN(道化師)
□小さい頃から周囲を笑わせよう、なごませようと努めてきた
□「落ち着きのない子」と言われた
□相手の目をまっすぐに見ないようにしていた
□自分の不安や弱さを相手に悟られないように努めてきた
□その場がシラケたり、気まずい雰囲気になると、非常に不安を感じる
□人と対決するのが怖い
□「明るい」「軽い」仮面の下の、本当のあなたを誰もわかってくれないと感じる
□深刻に悩んでいたり傷ついているときも、冗談を言ったり笑っていることが多い
CARETAKER(世話役)
□「やさしい子」「思いやりのある子」と言われるように努めてきた
□周囲の役に立つよう、がんばってきた
□自分勝手にならないよう、してほしいことがあっても我慢してきた
□困っている人がそばにいると放っておけない
□自分の都合より、他人の都合を優先することが多い
□自分を優先するのは、わがままでいけないことのように感じる
□相手が何を望んでいるのか、敏感に感じ取ることができる
□自分が何をしたいのか、何を感じているのか、わからなくなることが多い
出典:『アダルト・チャイルドが自分と向きあう本』アスク・ヒューマン・ケア研修相談室 著(アスク・ヒューマン・ケア)を元に一部改編
いかがでしたでしょうか?
どのタイプにチェックが多くついたでしょうか。
一つのタイプに限らず、ひとりが複数のタイプを持ちあわせている場合もあります。
前述の通り、アダルトチルドレンとは医療における診断用語ではないため、このチェックリストは診断をするためのものではなく、あくまでも傾向を知るための目安の一つとなります。
各タイプについて説明をします。
●HERO(英雄)
家族の期待に応えるために努力してきました。
そのがんばりが自分の価値だと感じています。
たとえば、高学歴の親のもと「いい大学に入りなさい」と言われて育ち、偏差値の高い大学に受かることが自分の価値だと思い込んでしまっているなど。
自分の活躍で、冷えた両親の関係が一時的によくなったりするため、努力と功績によって、希望をもたらし家族を支えようと、過剰にがんばり続けようとします。
●SCAPEGOAT(身代わり)
自分の存在を主張するために問題を起こしてきました。
家族のなかにある問題から家族の目をそらし、一手に引き受けています。
たとえば、夫婦仲の悪い家庭で育った子が、自分に問題があるふりをして非行に走り、親の関心を自分に向けることで、家族の崩壊を防ごうとするなど。
「この子さえいなければ、すべては丸く収まるのではないか」という幻想を、ほかの家族が抱くことで、家族の崩壊につながる問題の本質へ、家族が目を向けることを防ぐ役割を担っています。
●LOST CHILD(忘れられた子)
自分を守るために目立たないようにしてきました。
とても孤独な気持ちでいます。
たとえば、自分の意見を言っても否定されたり、聞いてもらえないことが多い環境で育ったことで、外でも内でも自分を出さないようになったなど。
家族内の人間関係を離れ、自分の心が傷つくことを免れようとします。
●CLOWN(道化師)
おどけた仮面の下には、さみしい素顔を隠しています。
たとえば、人の顔色を伺いながら、楽しい話題を振って家族を笑わせよう、重い空気を和ませようとがんばるなど。
家庭内の怒りや争いを緩和するために、無理をして明るい雰囲気を作ろうとします。
過度に雰囲気を読み取り、人の表情を伺い、どうすれば険悪なムードにならないかと常にビクビクしています。
●CARETAKER(世話役)
自分のことは後回しにして、親やきょうだいの面倒を見てきました。
誰かのお世話をしているときは充実していますが、本当は、自分は何をしたいのかがわからなくなっています。
たとえば、精神状態が不安定な親や、病気がちな親のもとに育ち、幼い頃からグチを聞く役目を担っていたり、家を守るために外で遊ばず、家の手伝いをしていたなど。
家族を維持する機能を一身に背負い、家族が崩壊しないようにバランスを取ろうと努力する傾向があります。
アダルトチルドレンは、ひとりがいくつかのタイプを持ったり、タイプが変化する場合もあります。
アダルトチルドレンの子ども時代に共通するのは、自分主体ではなく、親の機嫌や顔色、家のなかの雰囲気を察知し、態度や行動を決めていることです。
それは、無意識であり、そのような役割を担っていることを本人は意識していません。
無意識であるがゆえに、子どもの頃に身につけた役割が、生き方のスタイルとして固定化しやすいのです。
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