2020年6月1日から改正労働施策総合推進法、通称「パワハラ防止法」が施行されました。経営者はもちろん、従業員もパワハラ防止対策に取り組まなければならないという法律ですが、一体何に気を付ければよいのでしょうか。そこで、パワハラ防止法のすべてがわかる『最新パワハラ対策完全ガイド』(和田隆/方丈社)から、そもそも「パワハラ」とは何か、そして最新の対策や対処法などをご紹介します。
パワハラは"ロックオン"から始まる
パワハラをしようと思ってパワハラをする上司はいません。
組織のため、部下のために懸命に仕事に取り組んできた、そのパワー、熱量が一線を超えてしまったがために、パワハラになってしまったというのが、私が接してきたケースの多くです。
じつは、そこから見えてきたことが一つあります。
パワハラには、「一線を超える」前兆、前段階というべき状態があることです。
もしこれを察知できれば、パワハラのリスクを避けることができるはずです。
その前段階とは、パワハラを行う相手に対して、意識が集中してしまうという状態です。
私は、この状態のことを「ロックオン」と呼んでいます。
ロックオンとは、もともとは軍事用語で「銃の照準を合わせる」とか「自動追尾ミサイルで敵を捕捉する」という意味でつかわれています。
複数の部下がいたら、通常上司はそれぞれの部下を均等に見ています。
ところが、ある部下が期待に応えるような行動をしないとか、何か上司(自分)の課題を刺激するような言動をするなどの出来事が重なると、その部下がとくに目につくようになります。
上司は責任感を持っているがゆえに、「あいつ、大丈夫なのか?」とか「このままでは困る」と、ますますその部下だけに注意を向けていきます。
これがロックオン状態です。
ロックオン状態では、ものの見方がネガティブなほうに偏っていきます。
何かに注意を向けると、別のものには不注意になる―心理学では、「選択的注意」という言葉がこれに当てはまります。
いったん部下のマイナス面が目につくと、マイナスの情報ばかりに注意が向くようになり、あたかもその部下がマイナスなことばかりをしているように見えてしまうのです。
その部下にもプラスの面はあるはずですが、そういうところは目に入らない。
プラスの情報がもたらされても、気に留めずにスルーしてしまう、ということが起こります。
マイナスの意識で満たされた上司にはストレスが溜まります。
上司は、自らの中に堆積したマイナスエネルギーを放出する必要が生じ、部下に対してそれをぶつけてしまう......これがパワハラのからくりです。
【"ロックオン"からパワハラへのメカニズム】
①すべての部下を観察している(注意力が分散している)
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②ある部下のマイナス面に注意力が集中している(ロックオン)
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③マイナスエネルギーが溜まる(ストレスとネガティブ感情)
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④マイナスエネルギーを放出する(パワハラ)
私が「パワハラはストレス反応の一種である」と述べたのは、「パワーを持っている人がストレスを抱えると、自分より弱いものにそれを置き換えようとする」という、ストレスの置き換えというメカニズムがあるからなのです。
ロックオンという状態は、無意識に起こっています。
一人の部下のことばかり気になっている(注意の集中)。
その部下に対してイライラする(ネガティブ感情の表出)。
それが、ロックオン状態です。
つまり、自分の感情が自分の状態を教えてくれるのです。
ロックオンを解除するためには、それを意識化して、自分で取り外すしかありません。
一人の部下に集中していた意識を、もう一度分散し、全員を均等に見る状態に戻す必要があります。
部下に対して行っている評価や判断を一度ゼロベースで見直して、その部下の長所やプラス面に着目したり、ほかの部下との共通点を探してみるのもいいかもしれません。
ただ、一度「だめな奴だ」と評価を下した部下のよい面を見るというのは、なかなか難しいものがあります。
自分だけに頼るのではなく、第三者、周囲の人の声に耳を傾けてみるのもおすすめです。
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これからの時代、「働く人の常識」になるパワハラ対策を全7章で解説。厚生労働省のガイドライン全文も付録されています