2020年6月1日から改正労働施策総合推進法、通称「パワハラ防止法」が施行されました。経営者はもちろん、従業員もパワハラ防止対策に取り組まなければならないという法律ですが、一体何に気を付ければよいのでしょうか。そこで、パワハラ防止法のすべてがわかる『最新パワハラ対策完全ガイド』(和田隆/方丈社)から、そもそも「パワハラ」とは何か、そして最新の対策や対処法などをご紹介します。
パワハラのとらえ方
パワハラ問題をむずかしくしている一因が、人によって受け止め方や基準が異なることです。
たとえば、上司が部下に対して業務上必要な指示や命令をすること、部下の不適切な言動に対して注意することは、パワハラではなく指導です。
一方、上司が部下に対して人格を否定するような暴言を吐いたり、立場を利用して業務と関係のない私的な用事を強制したりするのは、指導ではなくパワハラです。
問題は、その境界にあるグレーゾーンです。
上司からすれば指導の一環ですが、受けた部下から見ればパワハラに見える。
同じ行為や発言でも、上司と部下の関係性が良好であれば部下は指導と受け取り、関係性が悪いと部下はパワハラと感じてしまうことがあります。
また、理性に基づいてなされていれば指導と受け止められやすいが、感情的なふるまいはパワハラと感じやすいものです。
上司と部下では、主観にズレがあることをよく知っておくべきです。
●パワハラと認定された言葉の暴力の例
パワハラによる損害賠償責任を認定した判決から(2007年~2017年)
「待っていた時間が無駄になった」
「耳が遠いんじゃないか」
「むかつく」
「帰れ」
「死んでしまえばいい」
「そんなことも分からないのか」
「相手するだけ時間の無駄」
「人の話を聞かずに行動、動くのがのろい」
「反省しているふりをしているだけ」
「お願いだから消えてくれ」
「何で自分が怒られているのかすら分かっていない」
「嘘を平気でつく、そんなやつ会社に要るか」
「何でてきないんだ」
「転勤願いを出せ」
「バカ」
「50代はもう性格も考え方も変わらない」
「車のガソリン代がもったいない」
「辞表を出せ」
「存在が目障りだ、いるだけでみんな迷惑している」
「人間失格」
「お願いだから消えてくれ」
「おまえは会社を食い物にしている給料泥棒」
「どこに飛ばされようと仕事をしないやつだと言いふらしてやる」
※上記の言葉が即パワハラと判断されるわけではありません。パワハラが発生した背景、行為者の動機、目的、受け手との関係、受け手の属性、ダメージの程度、行為の継続性等を勘案して総合的に判断されます。
一般的に、上司は「指導」ととらえる範囲が広く、部下は「パワハラ」ととらえる範囲が広くなります。
私は、研修の際、いくつかの事例を挙げて、これをパワハラだと思うか思わないかを、10段階のレベルで選んでもらうというワークを行うことがあります。
例えば、こんな事例です。
「課長から名前ではなく『おい』とか『おまえ』と呼ばれる」「月に一度の部門全体会議の前日は、部長の命令で2時間近くの残業を強いられる」パワハラだと思う度合いが強ければ強いほど10に近い数字を選びます。
逆にパワハラだと思わない度合いが強ければ強いほど1に近い数字を選びます。
自分の感覚で数字を選んでみてください。
いかがでしょうか。
●パワハラのとらえ方
あなたは下記の状態をパワハラだと感じますか?
当てはまる数字に○をつけてください。
※絶対パワハラだと思う場合は10に、絶対パワハラだと思わない場合は1に○をつける。
上記結果についてグループワークを行うと他者とのとらえ方の違いに気づくことができます(グループ全体の平均を出せば、個人とのギャップを確認できる)。
他の問題にも10に○をつける人は、職場でパワハラ被害を受けていると感じやすく、1に○をつける人は、パワハラを小さくとらえる傾向があり、自分側から物事をとらえ、周囲で働く人の考え、気持ちを踏まえることができず、パワハラ行為をするリスクも高いと考えられます。
研修でこれをやると、人によって数字はバラバラになります。
ある人は「パワハラというほどのことではない」と思うことも、別の人は「どうみてもパワハラでしょ」と感じている。
どの数字が正解ということではありません。
それほど人の主観には差があることを示しています。
ただ、「パワハラとは思わない」を多く選ぶ人は、パワハラを小さくとらえています。
物事を自分の視点から見ていて、周囲の人の気持ちや考え方に思いを寄せることができない傾向にあります。
その分、パワハラ行為をするリスクも高いと考えられますので、自分の傾向をよく理解しておく必要があるでしょう。
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