【虎に翼】今回の朝ドラは「攻めてる」のか? 寅子(伊藤沙莉)の赴任先を新潟にした「本当の意味」を考察

ちなみに、寅子(伊藤沙莉)のモデルとなった三淵嘉子の最初の赴任地は名古屋だった。それがなぜ新潟になったのかと思ったが、おそらく8月に戦争を描く意味が大きかったのだろう。

1つは、航一のモデルとなった三淵乾太郎が「総力戦研究所」に所属していたこと。もう1つは、三淵嘉子の史実の赴任先の中で、8月に空襲を受けたのが新潟だったこと。

三淵嘉子の最初の赴任地・名古屋の中心地が空襲を受けたのは3月、名古屋城が消失したのは5月だった。空襲は大都市から始まり、地方都市に広がっていき、7月から8月にかけては各地で毎日のように空襲があった記録がある。そんな中、米軍が攻撃目標にした180都市のうち新潟市は32番目、長岡は73番目だったが、新潟は原爆投下の候補地だったため、順位が低い長岡が標的にされたのだと言う(『新潟日報』2022年8月1日[読みトキ・戦後77年編]新潟の長岡空襲って?どうして狙われた?)。

つまり、世界を一変させたおぞましい「原爆投下」を前に、日々各地の空襲で奪われ続けてきた無数の命があった。にもかかわらず、メディアもあまり取り上げることなく、「透明化されてきた」戦争被害の1つに目を向けることも『虎に翼』の狙いだったのではないか。

「長岡まつり」は、昭和20年8月1日の長岡空襲の犠牲者への慰霊と世界平和への祈りを込めた伝統行事で、日本三大花火の「長岡花火」は長岡空襲の始まった8月1日午後10時半にあわせて毎年花火を打ち上げるというもの。今、この展開を朝ドラで描く意味を改めて噛み締めたい。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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