【虎に翼】今回の朝ドラは「攻めてる」のか? 寅子(伊藤沙莉)の赴任先を新潟にした「本当の意味」を考察

一方、涼子(桜井ユキ)と玉(羽瀬川なぎ)の店は近隣から嫌がらせを受けていた。店をオープンさせるため涼子が地元の人に色目を使ったと噂されているためではないかと玉は言う。良くないことだけど、嫌がらせにももう慣れてしまったと言う涼子。新しい憲法ができてすべての人は平等になったはずなのに、現実は程遠いと、寅子は悔しさをにじませる。

放火事件の裁判が進む中、検察から証拠として提出されたのは、顕洙から広洙に送られた手紙だった。その中には「私が中を完全に燃やしてしまったせいで、心配をかけただろう」という一文があると言う。しかし、放火のことをわざわざ手紙に書くことに違和感を抱いた寅子は、小野に「燃やす」の意味をハングルで書いてもらい、照らし合わせる。そこに齟齬はなかった。

それでも疑問が解消できない寅子は、香淑(ハ・ヨンス)に手紙で助けを求める。香淑は汐見(平埜生成)と共に寅子を訪ね、手紙の写しを見ると、それがとても悲しい内容だと言う。実は「中を燃やす」という言葉は「気を揉ませる」の意味の慣用句で、検察が誤訳していたことが判明する。

寅子は手紙の翻訳の正確性について杉田兄弟と検察の双方に意見を求め、合議の結果、顕洙は無罪となる。

ところで、寅子と優未を見て号泣した杉田太郎が、昭和20年の長岡空襲で娘と孫を失っていたことを知ったとき、「ごめんなさい」と泣いた航一の謝罪の理由が今週最後に語られた。航一は戦時中「総力戦研究所」に所属、机上演習で日本の敗北を確信したものの、上層部にその結果を報告しても取り合ってもらえなかった。その結果、日米開戦が止められなかったことをずっと後悔していたのだと言う。周りに慰められ、頭を冷やしてくると言い、1人席を立つ航一を追い、寄り添う寅子。次週はそんな2人の関係性の変化も描かれるようだ。

ところで、ここでの詳述は避けるが、関東大震災での朝鮮人虐殺は、朝ドラ『らんまん』第25週でも「自警団」の暴走と「十徳長屋」(十五円五十銭の問いを連想)」として描かれていた。

▶神木隆之介主演『らんまん』における朝鮮人虐殺の描写

この描写には舌を巻いたが、本作は「法律」が主題であるだけに、さらにストレートに描かれたこと。また、関東大震災の式典で朝鮮人虐殺の追悼文を就任翌年の2017年から7年連続で小池百合子都知事が送っていない現状において「『朝鮮人が暴動を起こした』という流言が飛び交って、大勢の罪のない朝鮮人が殺された」という事実がセリフとして明示された意義は大きい。

嫌がらせに慣れてしまった涼子、手紙を誤訳されても抗議せず、諦めてしまっていた顕洙には、差別される側が声をあげ続けることの困難が見えるが、放火事件を朝鮮人による犯行と決めつけ「これだから朝鮮人は」と言う警察に、寅子は即座に「やめてください」と言った。これは差別に対して非当事者のあるべき姿勢だが、現実にはなかなか難しい。

また、学校行事の山登りで、優未が同じ班になったと言う「クラスの中で嫌われてる子」が、転んでケガをした子を背負い、優未が荷物を持って下山したというくだり。ここで「優しいのね」と言った寅子に優未は「違うよ。だって、困ってる子を助けるのは普通のことでしょう」と言う。

クラスメートを客観的に「嫌われてる」と評してしまう優未は、いわゆる「優しい」子とは違う気がする一方、人として正しいことをしている。これは、「差別」や「加害」するか否かが、優しさの問題ではないということも示しているのだろう。

「平等やらなんやらに気を遣えるのは、学があるか余裕のある人間だけ」と太郎は言った。また、広洙に憎悪の目を向けられた入倉は「昔のことなんて知りませんよ、俺は誰も虐げたことなんてない」と言う。これらはいずれも現代につながる視点で、考えさせられる課題だ。なぜなら、過去にあった事実と、現在確かにある溝にどう向き合うかを考えたとき、怒りや憎しみの先に行きつく答えが戦争であることを私たちは知っているからだ。

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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