【虎に翼】優三さん(仲野太賀)が魅力的すぎた? ヒロインの新しい恋の描写を「狡い」と感じてしまう理由

【前回】今回の朝ドラは「攻めてる」のか? 寅子(伊藤沙莉)の赴任先を新潟にした「本当の意味」を考察

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「新しい恋の描き方」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【虎に翼】優三さん(仲野太賀)が魅力的すぎた? ヒロインの新しい恋の描写を「狡い」と感じてしまう理由 pixta_55612371_M.jpg

NHK連続テレビ小説『虎に翼』の第19週「魔女の賢女ぶり?」では、本作の最難関の1つが描かれた。前週では関東大震災で行われた朝鮮人虐殺や差別、戦争の問題が真摯に、かつストレートに描かれたが、そこから一転、大きな課題となるのは寅子(伊藤沙莉)の新しい恋の進め方である。

最初は「なるほど(にっこり)」ばかりで胸の内が読めなかった航一(岡田将生)と寅子の距離が徐々に縮んでいった。前週では航一が「総力戦研究所」に所属していたこと、机上演習で日本の敗北を確信したものの、日米開戦を止められなかった罪の意識を涙ながらに告白、それを受け、寅子が「寄り添って一緒にもがきたい」と言ったことから、さらに2人は急接近。

会いに行って良いかと聞く航一に、無粋に「何をしに?」と聞く寅子、そこから麻雀を教えるという名目で航一が訪れると、優未(竹澤咲子)は優三(仲野太賀)が写った家族写真を見せ、航一は亡き妻と子どもたちが写った写真を見せた。そこに杉田兄弟(高橋克実、田口浩正)が押しかけ、麻雀勉強会に。一同が去った後、優未が嫌な気持ちになることはしないと宣言する寅子に、優未は「お母さんが誰のことを好きでも嫌いでも良いけど、私のせいにしないでって言ってるの」とキッパリ。おば・花江(森田望智)やおじ・直明(三山凌輝)、従兄弟たちに守られ、母と2人暮らしになってからは大人ばかりに囲まれて暮らす精神年齢の高い優未は、頼もしくもあり、すでに寅子にとっての花江や母・はる(石田ゆり子)成分も感じさせる相手になっているのは難儀な人生だとも思う。

一方、寅子の心を別方向から乱し続けるのは、美佐江(片岡凛)だ。美佐江は売春事件がらみで補導される。女子高生が男たちに買春を持ち掛け、金を盗む事件が多発、その事件に関与した可能性のある女生徒2人と美佐江は一緒にいたのだった。しかも、その女生徒たちは、他の事件を起こした若者たちと同じく、寅子が美佐江にもらった赤い腕飾りをしていたことを知り、寅子は美佐江に「あなたがこんなことをする理由は?」と尋ねる。すると、美佐江は自分が恵まれていると自覚していると告げ、なぜ悪い人からモノを盗んではいけないのか、なぜ自分の身体を好きに使ってはいけないのか、なぜ人を殺してはいけないのかわからないと言う。

その表情のどこかにSOSを感じたのか、寅子は向き合おうとするが、ちょうどそのとき優未が来て、優未を見てニヤリとする美佐江に恐怖を抱いた寅子は、とっさに優未を守ろうと抱きしめてしまう。

そこで美佐江の開きかけた扉が閉ざされたことを感じた寅子は、美佐江の審判が行われないことが決まった後も思い悩む。そんな寅子を1人にしてあげようと、優未が稲(田中真弓)と2人で映画に出かけた後、突然航一がやって来る。寅子が美佐江のことで悩んでいることを知り、ただ傍らで書類を読み、一緒に過ごす航一。娘が気を遣って1人にしてあげた母が男と過ごしていたことを知ってもなお、オトナの優未は受け入れるのだろう。

3月、美佐江は東京大学に合格。モヤモヤを残しつつ今後の波乱が予感される。

そんな中、小野(堺小春)と高瀬(望月歩)が「友情結婚」すると聞いた寅子は、慎重に考えた方が良いと言う。自身が社会的地位を得るために優三を利用し、愛情を搾取して結婚した後に恋愛感情に変わっていったからこそ、何があるかわからないこと、2人の感情や関係が変わっていく可能性を理解し、当事者には余計な情報は与えず黙って祝福するのが寅子だと思っていた。しかし、「友情結婚」に否定的なのは、寅子の頭の中が他者の結婚云々よりも、優三の愛情を搾取した後ろめたさよりもすでに、自分の現在の恋にストップをかけることでいっぱいだったからではないか。しかも、寅子が帰宅すると、優未から手紙で寅子に「いい人」がいると聞いた花江が来ていて、寅子の思いを聞いてくれる。寅子が罪悪感で先に進めないと言うと、優未が起きてきてその考えを否定、「お父さんはお母さんに恋をしてほしいんだから」と言う。

優未は父の遺品のお守りを開け、そこに入っていた手紙を読んでいた。お守りは本来開けるものではないが、珍しく子どもらしいところを見せた優未のファインプレーにより、時を経て優三の思いを知る寅子。

「弱音を吐くことができる人、正しくないトラちゃんも好きでいてくれる人を見つけてください。できれば心から恋して、愛する人を見つけてください」

寅子が新たな恋に向けて飛び立つ翼を優三がくれたのだった。それでも寅子は自分の思いを断ち切るべく、優三を愛し続けると航一に伝え、航一も出会えて良かったと返す。

しかし、2人で部屋を出た後、雨でぬれた廊下で航一が転倒。手を取り合ううち、寅子の思いが溢れ出す。

「一緒にいたいのは星さんで......なんで私の気持ちはなりたい私とどんどんかけ離れていってしまうんでしょうか」

すると航一は、自分が優三の代わりになるつもりも、寅子を亡き妻の代わりにするつもりもないと言い、なりたい自分とかけ離れた、不真面目でだらしがない愛だとしても、線からはみ出て、フタを外して溝を埋めたいと伝えるのだった。

今週の展開にときめいた人も多数いるだろう。しかし、寅子のモデル・三淵嘉子が再婚した史実に合わせ、寅子の再婚に対する反感を極力軽減させるため、まずは優未をオトナにさせ、花江も呼び出して味方させ、優三の手紙にまで応援させたこと。それでも寅子自らが恋に向かって突き進むのではなく、逡巡し、いったん断ち切った上で思いが溢れ出すという用意周到な展開には、若干の狡さを感じてしまう。

航一は亡き妻のことは語っても、驚くほど子どもの話をしない。優未と一緒にいるとき、自然にわが子を思い出そうものなのに。また、「なるほど」しか言わない含み笑いの無口なイメージから、自分語りを始めると実に饒舌であることも見えてきて、公開する情報としない情報を選り分けている点も含めて狡さを感じる。

しかし、そんな意地悪な思いが湧いてくるのは、優三というキャラが魅力的すぎたためか。ともかく「永遠を誓わないだらしない愛」を始めることにした2人の行く末を見守りたい。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

PAGE TOP