「GDP比2%を目指す」いま防衛費拡充の議論が行われている理由

従来のGDP比1%から2%を目指して、防衛費拡充に向けた調整が本格的に進んでいます。今回は、笹川平和財団 安全保障研究グループ 上席研究員の小原凡司(おはら・ぼんじ)さんに、「防衛費」についてお聞きしました。

「GDP比2%を目指す」という
防衛費拡充の議論はなぜ行われているのでしょうか?

2022年に入り50発以上の弾道ミサイルを発射している北朝鮮、沖縄・尖閣諸島周辺における領海侵入を常態化させている中国、そしてウクライナ侵攻を続け核兵器の使用もほのめかしているロシアと、近隣諸国の軍事活動が活発化しています。

日本でも、防衛費拡充に向けての調整が本格的に進んでいます。

安全保障問題に詳しい小原凡司さんは「防衛費拡充が議論されている背景には、大きく二つの理由があります。そもそもこれまでの防衛費が不足していたため、防衛のための準備が十分でなかったことが一つ。そしてもう一つは、今後の安全保障で必要な装備を拡充していかなければならないことです」と話します。

それぞれの理由の詳細は、下で述べている内容になります。

「これまで日本国内では安全保障についての議論を行うことさえタブー視される風潮がありました。そのツケがいま回ってきていると言っても間違いではありません」と、小原さん。

防衛費拡充の背景

(1)そもそもこれまでの準備が不十分だった

「自衛隊にはこれまでの防衛費では、実は本来必要なだけの弾薬すら配備できていませんでした。有事の際の継戦能力(※)がない状態だったんです」と、小原さん。

他にも「航空自衛隊の基地には、駐機している航空機を攻撃から守るための覆いなどもないし、また人を集めるためには官舎などを改修していく必要があります。それだけでも、いまの予算の倍以上は必要になると思います」と続けます。

※戦闘を続けるための能力

(2)今後安全保障で必要になる装備を整える

技術の進化によって、戦争の姿も様変わりしています。「先進諸国は、いまAI (人工知能)を用いた戦闘を考えています。AIや量子コンピューターといった最新技術を結び付け、大量の無人機などが協調して効率的な攻撃方法などを自動で判断して行う、というものです。安全保障におけるこの分野について日本は特に遅れていて、いまのままではこれからの新しい戦闘についていくことができません」と、小原さん。

さらに「近年ではハイブリッド戦という考え方があります」と続けます。ハイブリッド戦とは、「相手社会の強靭性を失わせるためにライフラインの破壊、サイバー攻撃などによる通信の途絶、物流の遮断、偽情報の流布などによって国民を精神的に追い込む戦い」です。「このような攻撃への備えだけでも、数兆円規模の予算が必要になります」と指摘しています。

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中国による領海侵入が常態化している沖縄・尖閣諸島(2013年9月撮影)

近年の防衛費の推移

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※財務省資料より作成 ※金額は中期防衛力整備計画対象経費、SACO・米軍再編経費、政府専用機関連経費、臨時・特別の措置を含む

防衛費は年々上がっていると本当に言える?

上のグラフを見ると、日本の防衛費は年々上がっているように見えますが、「必ずしもそうではありません」と、小原さん。どういうことでしょうか。

GDPを見ると、日本はこの10年ほぼ横ばいです。それに対し、他の先進国は概ね右肩上がり。また、2022年に入ってからは急激な円安になっています。

「近年、例えばアメリカだと物価の上昇が激しく、ラーメン1杯が数千円もするという話を聞いたことがあるかもしれません。同じことが弾薬などの装備品にも言え、防衛費は増えているように見えますが実際に購入できる装備の数は減っている、ということが起こっています。つまり、相対的には防衛費は増えているどころか減っているとすら言えるのです」と、小原さんは話しています。


上のグラフのように防衛費は右肩上がりに増え続けていて、23年度では5.6兆円の予算が概算要求されています。

「自民党はいま、日本のGDP(国内総生産)比2%の額まで防衛費を拡充しようとしています。およそ年間10兆円強になるのですが、それでもこれからの安全保障に必要な金額から考えると、十分ではありません」(小原さん)

では、このGDP比2%という数字はどこから出てきたのでしょうか。

「これはNATO(北大西洋条約機構)加盟国が目標としている数字です。ウクライナ侵攻で、ロシアのプーチン大統領が核兵器の使用をほのめかす『核の恫喝』を行いました。このような脅しに対しては、それに対抗する意思と能力を示して相手を自由にさせないことが必要になります」と、小原さん。

さらに小原さんは「日本はこれまで撃ってくるミサイルを撃ち落とす、というような防御能力に特化してきたため、日本だけでは『核の恫喝』のような脅しに対抗する能力はありません」と、続けます。

「国際秩序や民主主義に対する挑戦に対して抑止しようとする中で、各国が努力している姿をお互い見せ合うことでその協力が実現可能なものになるのです。逆に言えば、日本だけが防衛費を現状のようにGDP比1%程度のままでいようとすると不信感を持たれ、いざというときに助けてくれる国がなくなってしまいます」(小原さん)

防衛費を拡充する際の財源は、私たちが納める税金です。

「確かにいま、物価が上昇して家計も苦しいと思います。ただ、いまの物価上昇の原因をたどると、ロシアのウクライナ侵攻もその一つ。エネルギー資源や穀物の輸出が滞っていることで、日本にも影響が及んでいるのです。ロシアのやり方を放置していると、次の危機が連鎖的に起こってしまう。そうなる前に食い止める必要があるのです。そのためにも防衛費拡充が必要で、決して戦争を起こすためではありません」(小原さん)

私たちの安全や繁栄を維持するために防衛力はどこまで必要なのか。

この機会によく考えたいですね。

※この記事は12月9日時点の情報を基にしています。

取材・文/仁井慎治 写真提供/共同通信社

 

<教えてくれた人>

笹川平和財団 安全保障研究グループ 上席研究員
小原凡司(おはら・ぼんじ)さん

1963年生まれ。85年、防衛大学校卒業。98年筑波大学大学院地域研究修士修了。85年に海上自衛隊入隊。防衛省海上幕僚監部情報班長などを歴任後、外資系企業勤務などを経て2017年6月より現職。

この記事は『毎日が発見』2023年1月号に掲載の情報です。

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