国内の食品ロスは年間522万トン。世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の年間食料支援量の1.2倍に相当します。今回は、office 3.11 代表 食品ロス問題 ジャーナリストの井出留美(いで・るみ)さんに、「食品ロス問題」ついてお聞きしました。
物価が上昇しているいまだから考えたい
「食品ロス」問題 で私たちができることは何?
今年に入って物価の上昇が続いています。
食品も例外ではなく、日々の買い物時に頭を悩ませることもしばしば。
しかしその半面、見落とされがちなのが、食べられるのに廃棄されてしまう「食品ロス」の問題です。
実は国内の食品ロスは年間522万トン(※)にも及ぶというのです。
これは、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の年間食料支援量の1.2倍に相当します。
食品ロス問題に詳しい井出留美さんは、「これは社会、環境、経済にとって大きな問題です。廃棄食品を運搬して焼却するには、多大なエネルギーとお金が必要です。そのお金には、一部税金も使われています。食品ロスを減らせば、環境への負荷も軽減できますし、税金を別の教育や福祉の分野に回せます」と話します。
「522万トンのうち53%が食品の製造から流通、小売の流れの中で出る事業系の食品ロスで、残りが家庭系です。まず事業系の食品ロスですが、これをもし削減できれば良心的なメーカーは値下げしてくれることも考えられます。食品ロス分のコストは、価格に転嫁されていますので」と、井出さんは続けます。
では、なぜこれだけの事業系の食品ロスが生まれるのでしょうか。
井出さんは「最も大きな理由は、日本独自の商習慣にあります」と説明。
その商習慣とは、主に下に示した「3分の1ルール」「日付後退品の拒否」「欠品ペナルティー」のことです。
日本独自の商習慣とは?
●3分の1ルール
日本の食品業界における独自の商習慣として、最も代表的なものが「3分の1ルール」です。賞味期限を3分の1ずつに区切って最初を「納品期限」、次を「販売期限」とするルールです。「例えば賞味期限が6カ月の商品だとすると、製造から2カ月以内にメーカーや卸売業者は小売店に納品しなければ、受け取りを拒否されることになります。返品されたメーカーは賞味期限まで4カ月を残しながら、販売できなくなってしまいます。そして、製造から4カ月を過ぎると、売り場の棚から撤去されてしまうのです」(井出さん)
●日付後退品の拒否
多くの食品には「賞味期限」が記載されています。しかし小売業には、あるとき納品された食品の賞味期限が11月1日だったとすると、それ以降は11月1日以前に賞味期限が設定された同じ食品の納品は拒否するという商習慣があります。それが「日付後退品の拒否」です。
ただしこの商習慣は、メーカーや大手スーパーで改善の動きが見られます。
●欠品ペナルティー
多くのスーパーの食品売り場は、商品の欠品もなく整然と並んでいます。これは、小売店からの発注に対してメーカーや卸売業者が期限内に納品できないと罰則を受ける「欠品ペナルティー」があるからです。「最悪の場合、メーカーや卸売業者は取引停止の罰則を受けることがあります」と、井出さん。「3分の1ルール」や「欠品ペナルティー」が、食品の過剰製造や過剰在庫の原因になっているのです。
この「欠品ペナルティー」と「3分の1ルール」については、多くの小売店でいまも続いています。「一つでも例外を認めると、そこから堤防にあいた蟻ありの穴のように全てが瓦解してしまい、売り場を維持できなくなるという考えを持つ小売店が多いからです」(井出さん)
ただし、2019年の食品ロス削減推進法施行以降は、状況が変わりつつあります。
「例えば、賞味期限が3カ月以上ある食品は、その期限の表示を年月日ではなく年月だけでよいとする決まりがあります。包装を工夫し食品が傷みにくいようにして賞味期限を3カ月以上に延ばし、表示を年月だけにすれば賞味期限に幅を持たせられるので、『日付後退品の拒否』の減少につながります。メーカーや自社商品を販売している大手スーパーは、このような工夫も始めています」(井出さん)
しかし井出さんは「ただ、まだ道半ばです。例えばコンビニエンスストアでは、加盟店に対して賞味期限が近づいた食品を安売りすることを認めずに廃棄させて新しく発注させても本部の利益が残るという仕組みがあるため、依然として大量の食品ロスが生まれています」と指摘します。
さらに、私たちの行動にも見直すべき点があるといいます。
「つい賞味期限が先の商品を選んで、手前の商品を避けて棚の奥に並んでいる商品を手に取ってしまうこともあると思います。しかし実はこれも食品ロスにつながっています。私たちの行動も事業系の食品ロスに無関係ではないのです」(井出さん)
同時に家庭系の食品ロスの削減を行うと環境、家計により効果的です。
そのために「3Rを意識してください」と、井出さん。
「3R」とはリデュース(削減)、リユース(再利用)、リサイクル(再資源化)の頭文字で、環境問題を考える際に重要な言葉。
「リデュース、リユース、リサイクルの順に行うことが重要です」(井出さん)
物価上昇が続くいまだからこそ、食品ロスの問題について見つめ直したいですね。
※2020年度推計値。農林水産省ホームページより
取材・文/仁井慎治