定年後に母の介護をしながらパソコンを始め、2016年からはアプリの開発を開始。17年に米国アップルによる世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待され、現在、岸田首相主催のデジタル田園都市国家構想実現会議構成員としても活躍中の若宮正子さんに「人とつながること」についてお話を聞きました。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2023年11月号に掲載の情報です。
人生は一人で歩くもの。
ですが、ともに歩む友人に出会えたら、
もっと楽しい道かもしれません。
人生100年時代を生きるために必要なのは「つながる力」だと思います。
人は一人では生きていけません。
それに自分だけで考えていると、どんどん視野が狭くなってしまいます。
人とつながるということは、さまざまな叡智を得て、人生を豊かにすることに通じています。
人と人が何でつながるかといえば「ご縁」なのですが、残念なことに年を重ねるにつれ、ご縁のあった人たちが次々と「お先に失礼」と逝ってしまいます。
世の常だとはいえ、寂しいものは寂しい。
かくなる上は新たなご縁をつなぐしかありません。
私の場合は「血縁」、地域の人との「地縁」、仕事仲間との「職縁」、これに「インターネット縁」と「ボランティア縁」を加えて「ご縁」ならぬ「五縁」でつながる人たちとの交流を大切にしています。
「友人ができない」と嘆く人がいますが、友人は待っていてもできないものなのですよね。
人のいるところへ行って、自分から声をかけなければ。
もし友人が欲しいなら、まずは自分という人間を細分化することから始めると良いですよ。
このことを私は「自分にハッシュタグ(※)をつける」と言っています。
「私は主婦です」という一点張りではなく、「ケーキ作りが得意です」「書道が好きです」「俳句が趣味です」「猫を飼っています」など、自分のできることや好きなこと、興味のあることのタグを自分で自分に張りつける。
自分の持つさまざまな側面を見つめれば、世界はグンと広がります。
その上で共感してくれそうな人のいるところへ行けば、気の合う友達ができることでしょう。
対面での人付き合いが苦手だというのなら、ネット縁がおすすめです。
私もシニアサイト「メロウ倶楽部」を通して大勢の友達と出会いました。
一度も会ったことのない人がほとんどですが、誰かが「庭の桜が満開です」と言葉を添えて写真をアップすると、それを見た人たちから「京都の桜も夢のように綺麗でしたよ」「桜といえば母を思い出します」といったコメントが寄せられます。
そういう、やんわりとしたつながりも楽しいものです。
会うことのない人たちだから本音を打ち明けられるということもあります。
メロウ倶楽部には「生と老」というテーマを話し合う部屋があるのですが、末期がんの男性から「家族にはいえないけれど、本当は怖い」といった内容の投稿があったときも「怖いのが普通だ」「思い切り泣いて」とたくさんのコメントが寄せられていました。
その方は、「これが最後の投稿になるかもしれません。長い間ありがとう」という文面を投稿したきり音信が途絶えてしまいましたが、人生の最後に心のうちを吐露する場所があれば救われます。
このことを通して私は、"人とつながること"の大切さを改めて痛感しました。
とはいえ、一人で過ごすのも好きです。
特に旅は気楽な一人旅に限ると思っています。
一人旅は孤独すぎるという人がいたので、「たまにはいいじゃない?」と返したら、「友達のいない寂しい人だと思われるのが嫌だ」なんていうのでビックリしてしまいました。
誰が見ているというのでしょうか?
よしんば「寂しそうな人だ」と思われたとしても、それがなんだというのでしょうか?
友達がいてもいなくても、自分が楽な方を選択すべきだと思います。
人生はしょせん一人旅。
道に迷うと困るから、誰かに旅のルートを決めてほしいといった依存心から人とつながりたいというのは、厳しい言い方ですが"甘え"です。
自律し、自立している人同士でなければ、気持ちの良い人間関係を培うことはできません。
ですから私は、「基本的には一人で生きていけるけれど、友人がいたら人生は何倍も楽しい」と思うのです。
※ SNS上でキーワードやトピックを分類するタグのこと
構成/丸山あかね イラスト/樋口たつ乃