【おかえりモネ】まさに異例作。「合格」は冒頭でサラリ...重点が置かれたのは「どう伝えるか」/9週目

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「『おかえりモネ』のヒロイン・百音が周囲にどう『合格』を伝えたか」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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清原果耶主演のNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)『おかえりモネ』第9週のサブタイトルは「雨のち旅立ち」。

今週は月曜冒頭で、百音(清原果耶)の3度目の気象予報士試験が合格だった展開が描かれる。

実に異例だらけの本作らしい描写だ。

なぜなら、通常、ヒロインが人生の次のステージに行く大きな分岐点は金曜か、かつては土曜に放送されることが多かったため。

しかし、本作では合格自体はサラリと描かれ、それをどう周囲に伝えるかに重点が置かれる。

まずサヤカ(夏木マリ)に気を遣い、「落ちた」と嘘をつく百音。

東京の気象予報会社で働きたい気持ちを押し殺す百音の優しい嘘だ。

しかし、その思いに気づき、百音を送り出そうとするサヤカの寂しさと優しさ、一人で生きる覚悟が今週のメインでもある。

実はサヤカにはもう一つの別れがあった。

大事に見守ってきたヒバを伐採したものの、保管場所を建てる資金がない。

そこで、百音が過去数百年、災害に遭っていない安全な場所として神社を見つけ、保管してもらえることになる。

ヒバの保管場所を必死で探す百音は、まるで自分の代わりにサヤカを守る存在を探すかのようだ。

登米に来たばかりの頃は、何もなく空っぽな目をしていた百音が、仕事や勉強、人々との交流を通してたくましくなっていく成長ぶりは眩しい。

その一方で、守られていた側が今は守る側としてサヤカを案じ、嘘をついて登米に残ろうとする気遣いは嬉しくもあり、寂しくもある。

この描写には、成長した子どもが、ふとしたときに親の弱さを感じたり、小さくなったように感じたりしてしまう瞬間の寂しさと、子どもが親の前ではずっと子どもを演じようとしている様子に気づく大人目線での寂しさと、その両方が込められている気がする。

しかし、サヤカに背中を押され、東京に行くことを家族に話す百音。

震災のときに島にいなかったことで、周囲と見たもの・経験したものが周囲と大きく違ってしまったことが後ろめたさになったこと。

自分が何もできなかったという思いから抜け出すために島を出たかったこと。

気象は未来がわかることから、自分が誰かの役に立つかもしれないと、前を向けるようになった思いを伝える百音。

そして、旅立つ百音を見送らないと言うサヤカに、百音が贈ったのは10分後の空に現れる虹だ。

百音が初めて気象予報を介して送ったプレゼントである。

奇しくも百音の旅立ちが描かれた7月16日、関東甲信地方・東北地方の梅雨明けが発表された。

まるで青空を味方につけるように、晴れやかな表情で歩き出す百音。

本当に良い顔になってきた。

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文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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