心の通う医療の重要性
お手伝いさんの入院中、遠藤さんは何もしなかったわけではありませんでした。
あと1カ月の命と診断しながら、病院では延命治療のためにさまざまな検査を彼女に行なおうとしたそうです。
検査は、大変な痛みと苦しみをともなうものです。
安らかな死を迎えさせてあげたいと考えた遠藤さんは、少しでも検査を減らすために病院側と交渉をして、同じような検査の中止を訴えたのです。
病院の延命治療に疑問を感じた遠藤さんは、この経験をきっかけに「心あたたかな医療」という運動を進められました。
今から40年ほど前のことです。
それまで、医療の現場では患者の意志や尊厳を無視するような検査や治療が行なわれることも多くありました。
たとえば、当時のほとんどの病院では、夕食の時間は午後の4時半から5時頃という早い時間に決められていました。
尿検査は今のようにトイレですますことはできず、紙コップを渡された患者がトイレに尿を採りに行き、それを持って多くの人がいる待合室を通って診察室に行かなければなりませんでした。
これは特に女性にとっては、大きな抵抗を感じることでした。
また、看病のために付き添う家族が休める場所も病院にはありませんでした。
長い闘病経験をもつ遠藤さんは、一人の患者という立場から、「病院は何より患者の心を癒す場であるべきだ」と訴え、医療現場の改善を求めたのです。
当初は批判や抵抗もありましたが、賛同する人も多く、この運動は心ある人たちを中心に広まっていきました。
現在では、病院で早い時間に夕食を強制されることも、尿検査で恥ずかしい思いをすることもないでしょう。
現代の医療の現場では当たり前なことも、以前はそうではなかったのです。
心あたたかな医療の運動が、いかに画期的なことだったのか理解していただけるのではないでしょうか。
遠藤さんの心の根底には、苦しむ人の救済と人間の尊厳を守るという大切な思いがありました。
こうした思いは、これから死にゆく人と向き合うすべての人にとって、とても重要なことだと思うのです。
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