「戦争に勝ち負けはない」。憎しみの連鎖を断ち切り、平和をつくるには【医師で作家の鎌田實さんが語る】

月刊誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師で作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「憎しみの連鎖を断ち切り、平和をつくる」です。

この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年1月号に掲載の情報です。

今すぐ停戦を!

イスラエルとパレスチナの戦いが激化しています。

ガザ地区では町が空爆で破壊され、子どもも大人も逃げまどっています。

一方、ハマスに人質として家族を拉致され、安否を心配する人たちもいます。

どちらにも言い分があるのはわかりますが、ここは冷静になって、何としても停戦してほしいと切に願っています。

ぼくが初めてイスラエルとパレスチナを訪ねたのは、2010年のこと。

ヨルダン川西岸で暮らすパレスチナの12歳の少年が、イスラエル兵に撃たれ、脳死状態になりました。

その少年の心臓は、イスラエルの心臓病を抱える12歳の少女に移植されました。

この命のリレーのことを日本の新聞で知り、もっと詳しく知りたいと思い、この地を訪ねたのです。

まず、心臓を提供した少年の父親に会いました。

「ぼくが父親だったら、息子を殺した敵に心臓を提供したくない。あなたはよく承諾できましたね」

ぼくがそう聞くと、少年の父親はこう言いました。

「海で溺れている人がいたら、泳げる人間は助けるのが当然のこと。国はどこだとか、宗教は何かなんて聞かない。私はただ人間として正しいことをしただけです」

それから、ぼくは少年の父親とともに、イスラエルの少女の家を訪ねました。少女は、17歳に成長していて、恥ずかしそうにしながら迎えてくれました。

憎しみは心を蝕(むしば)むがん細胞

ぼくはこの話を『アハメドくんのいのちのリレー』(集英社)という絵本にしました。

さらに、この印税を使って、ヘブライ語版とアラビア語版と英語版を自費出版。

それらを携え、13年、再びこの地を訪ね、ガザ地区やヨルダン川西岸地域で読書会を行いました。

天井のない監獄とも言われるガザ地区では、狭い地域に押し込められてどこへも行けない、窒息寸前だと不満が語られました。

ぼくが期待した反応ではありませんでしたが、それほど両者の対立が深いことをあらためて認識しました。

イスラエルとパレスチナの対立は、1948年、パレスチナにイスラエルの建国が認められたことから始まります。

イスラエルの政権が強硬派になると、パレスチナの土地にイスラエルの町を拡大。

70万人近いパレスチナ人はヨルダンやイラク、エジプトなどに難民として出国しました。

パレスチナ難民キャンプで育ったアブエライシュ医師は、2009年のイスラエル軍のガザ攻撃で3人の娘と姪を失いました。

彼は、仲間からお前はイスラエル兵を憎むだろうと言われたとき、「憎しみは、憎む側をも破壊するがん細胞のようなものだ。私は憎まない」と述べました。

両者の間には、強い憎しみや怒りがあるのは確かですが、このままでは自分たちをも滅ぼしてしまうという危機感をもっている人も少なくありません。

やられたら5倍、10倍にしてやり返すという憎しみの連鎖を、何とか断ち切ってもらいたいと思っています。

戦争には勝ち負けがない

イラン出身の俳優のサヘル・ローズさんは、イラン・イラク戦争で両親を失いました。

施設で暮らしていたとき、ボランティアで来ていた学生が養母となりました。

サヘルさんは、その養母からこんなことを言われたそうです。

「いつかあなたは、ちゃんとイラクを見なさい。戦争に勝ち負けがないということを学び、隣国のイラクを愛しなさい」

戦争の傷は、勝った側にも負けた側にも残る。

敵国に対する憎しみや怒りを断ち切れということだと思います。

サヘルさんは今、ジョルジオ アルマーニの日本アンバサダーに抜擢されるなど、大活躍。

忙しい日々のなかでも、イラクの子どもたちの支援をしているJIM-NET(ジムネット)の活動に関心をもち、応援してくれます。

平和は一足飛びにきません。

しかし、憎しみの連鎖を断ち切るには、まずは相手の身になって考えることから始めることが大切なのです。

"だれかのために"は無形資産?

人はいろんな資産を持っています。

土地や建物、車などといった有形固定資産もあれば、特許権や経営権、ソフトウェアなどの無形固定資産もあります。

でも、それだけではありません。

人脈や知識、心身の健康、自己決定力、困っている人に手を差し伸べる力、仲間を巻き込む力...など、人生で培ってきたものも、大事な資産ではないでしょうか。

これらをぼくは勝手に「無形浮遊資産」と名付けました。

この無形浮遊資産をたくさん持っているほうが、人生をおもしろくすると思います。

税金もかかりません。

特に、困っている人に手を差し伸べる力という資産がある人は、視野を広げ、多くの人と仲良くなれる可能性があります。

JIM-NETのチョコ募金が今年も11月20日から始まりました。

六花亭のチョコレートで、缶はイラクやシリアの子どもたちが描いた絵がデザインされています。

赤いバラの絵を描いたシャームさん(15歳)は、混乱のシリアからイラク・アルビルに逃げてきましたが、血液の病気がわかり苦しい状況に陥っています。

チョコ募金は、そんな子どもたちの医療支援に充てられます。

4缶1セットで2200円。

今年は13万個用意しました。

ぜひ、チョコ募金にご協力をお願いいたします。

問い合わせ、申し込みはhttps://www.jim-net.org

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サヘル・ローズさんと。チョコ募金のホームページでは、サヘルさんがイラクの小児がん患者と家族の総合支援施設JIM-NETハウスを訪れた際の映像を見ることができます。

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2024年のチョコ募金の缶のデザインの一部です。左がシャームさんで、右は妹のリンさん。

文・写真/鎌田 實


 

<教えてくれた人>
鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラク、ウクライナへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

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