定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師で作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「健康づくりは、よく理解することから」です。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2023年7月号に掲載の情報です。
その一口、我慢したほうがいい?
「やせなきゃと思いつつ、『もったいない』とつい食べすぎてしまいます」
だれもが身に覚えがあるのではないでしょうか。食べずに捨ててしまう"フードロス"は経済的にも問題ですが、健康にも大きな問題になりえます。
健康診断などで「メタボ」という診断を受けて慌ててダイエットをする人が多いのですが、食事制限でやせた人は筋肉が少なく、将来フレイル(虚弱)やサルコペニア(加齢性筋肉減少症)になるだけでなく、代謝効率が悪くなり、ちょっと食べすぎただけですぐに体重が増える太りやすい体になってしまいます。
もちろん、食事の内容や量に気を付けることは大切です。糖質と脂肪分を少し減らして、タンパク質と野菜をしっかりたっぷり食べましょう。それと同時に、筋活とウォーキングで時間をかけて少しずつ筋肉を増やしながら脂肪を減らして体重をコントロールするのがベストです(図1参照)。
つい食べすぎてしまったときは自分を責めるよりも、その分積極的に体を動かし、筋肉をつくるように心がけましょう。満腹のときは「残す」勇気も必要ですが、「やせなきゃ」と思いすぎるのもよくありません。国立がん研究センターの論文では、最も死亡リスクが低いのはBMI(体格指数、正常値は18.5~25未満)が21~27です(図2)。男女問わず肥満で死亡率が高くなるのは27を超えてからなので、25~27の「ちょい太」はそれほど心配しなくていいのです。
薬をのむ前にできること
「コレステロール値が高いと言われましたが、薬はのみたくありません」
外来をしていて、ときどき患者さんから聞く言葉です。
LDLコレステロール、いわゆる悪玉コレステロールの基準値は120mg/dl未満、脂質異常症の境界線は140以上です。ですが、基準値の120を超えたらすぐに薬を使うというのは間違いと考えています。
アメリカの医学界では無駄な検査や医療をしないようにするチュージング・ワイズリー運動を進めています。そのひとつが「70歳を超える高齢者のコレステロール値は下げてはいけない。低いほうが死亡率が高い」というものです。
棒グラフ(図3)を見てください。LDLコレステロールが200以上になると死亡数が増えますが、100以下でも下がれば下がるほど死亡数が増えていきます。
コレステロールは細胞膜をつくったり、各種のホルモン合成の材料になったり、胆汁酸をつくる材料になったりします。コレステロールは多すぎてはいけないのですが、少なすぎても寿命を縮めることになります。
ぼくの外来では、180くらいまでは薬を出さず、できるだけ生活指導で経過をみるようにしています。野菜やキノコ、海藻などを多く食べること。食事の脂肪分を減らし、筋活と3分間の「お手抜き速遅歩き」をやりましょう。
【お手抜き速遅歩きの方法】
(1)1分間は幅広歩行。大股で歩きます。
(2)次の30秒はピッチ歩行。競歩のように足の回転数を上げます。
(3)次の30秒はゆっくり歩き。腹式呼吸をしながら、景色を眺めたり、風を感じたりしましょう。
(4)最後の1分間は再び幅広歩行をします。
これを5セット(合計15分)できるといいですね。