イラクの子供が教えてくれた「誰かのために役立つ生き方」

雑誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。
今回は「だれかのために役立つ生き方へ」です。


ぼくがイラクの子どもを救いたい理由

すべての戦争に反対してきました。戦争は、子どもや女性が大きな被害を受けます。そこに続いてきた人の営みや文化、自然も一瞬で破壊します。どんな理由があっても戦争はよくないのです。

イラク戦争の始まるときも反対しました。しかし、アメリカを中心とする有志連合がイラクに攻め込み、日本も少しだけ加担しました。戦争に反対した以上は、自分にできることをやろうと思いました。JIM-INET(ジムネット)(日本イラク医療支援ネットワーク)というNPOをつくり、戦争で傷ついた子どもや、戦乱によってまともな治療が受けられない白血病やがんの子どもを救う活動を始めました。イラクの4つの小児がん病院に、薬や医療機器を支援してきたのです。

その後、シリア国内の紛争やテロ組織「イスラム国」の台頭で大混乱が起きてからは、イラク国内に逃げてきたシリア難民の支援やイラク国内避難民の健康を守る活動も続けています。

昨年5月には、外務省の日本NGO連携無償資金協力の助成を受け、小児がんセンターと隣接する地に、「JIMINETハウス」を建設し運営しています。治療中、小児がんの子どもと親がここに寝泊まりしたり、スタッフが勉強を教えたり、絵画、音楽などに親しめる場となっています。

イラクの子供が教えてくれた「誰かのために役立つ生き方」 kamata002.jpg難民キャンプの子どもたち

子どもの命を救うチョコ募金

JIMINETの年間の運営費は、約2億円。日本のNGOは、欧米に比べて経営体質が弱いといわれていますが、ぼくたちは運営費を自助努力でつくり出しています。

そのなかで大きな柱となっているのが、チョコ募金です。550円を寄付していただくと、チョコレート1缶をプレゼントします。チョコレートは北海道の名店「六花亭」が材料費のみで協力してくれています。だからおいしいのです。

1缶につき約310円の利益が上がります。今年は14万個つくりました。完売すると約4400万円をイラクの子どもやシリア難民、福島支援などの活動資金に充てることができます。

缶の絵は、イラクやシリアの子どもたちが描いてくれました。毎年、この絵を楽しみにして、チョコ募金に協力してくれる人。も少なくありません。描いてくれた子どもたらそれぞれに物語があり、絵はその象徴です。

15年目の節目となった今年のチョコ募金は、これまでのチョコ缶のデザインのなかから、好きなものを改票してもらい、人気のあった4つのボタン刻しています。

イラクの子供が教えてくれた「誰かのために役立つ生き方」 kamata004.jpg

チョコ募金の缶の絵は、イラクやシリアの子どもたちが描いてくれた。

思いがつながるチョコレート

イラクの子どもたちにとっても、絵を描くことには特別な思いがあります。赤い花束をもった自分自身を描いたのは、11歳のときに目のがんになったサブリーンです。

彼女は貧しく、学校に通ったことがありませんでした。ぼくたちは彼女の治療費を出し、その病院にスタッフを雇って院内学級 を開きました。そこで初めて勉強を学び、絵を描くことを知ったのです。その絵がチョコレートの街になることを彼女に知らせると、とても喜んでくれました。

死期が迫るなか、サブリーンはこんな言葉を残しました。

「私は死にます。でも、私の描いた絵のチョコレートが、ほかの病気の子どもの命を助けることができるから幸せです」

15年の短い生涯でした。

赤い花やひまわりの絵を描いてくれたのは、ハウラです。彼女は白血病でしたが、治療が成功。退院後は、約300キロ離れた家から通院する交通費をJIMINETがサポートし、完治することができました。

24歳になったハウラは、「人の役に立つ人間になりたい」と、会計学の勉強をしています。亡くなった仲間たちの分までがんばる、と言ってくれています。

こうして描かれた子どもたちの絵は、多くの人たちの心に響くようです。毎年、銀座のギャラリー日比谷で子どもたちの絵画展を開催しています。今年は2月7日(金)~12日(水)です。

一昨年は歌手の神野美伽さんがサブリーンの絵を友禅染にした着物を、舞台で披露してくれました。昨年は、LUNASEAとX JAPANで活躍しているSUGIZOさんが、これまでのチョコ缶をデザインしたステージ衣装を製作。今季のチョコ募金キックオフイベントには、難民キャンプ専門バンド「ババガブージュ」を結成し、イラク北部のダラシャクラン難民キャンプや、JIMINETハウスでライブコンサートをしたときの様子などを語ってくれました。会場は、多くのSUGIZOさんのファンでにぎわい、ぼくたちの活動に関心をもってくれる人たちも年々広がっています。

イラクの子供が教えてくれた「誰かのために役立つ生き方」 kamata003.jpg病院で絵を描くことを学んだサブリーン(写真左)。赤い花束の絵を描いてくれた。

それぞれの方法で、平和を目指そう

子どもたちの絵から出発したチョコ募金は、手から手、人から人へと思いが伝わりながら、成長してきました。ぼくは医師なので、「聴診器」で平和を目指します。イラクの子どもたちは「絵」で、音楽家たちは「音楽」で平和を目指すように、どうしたら戦争や紛争がなくなるのか、それぞれの方法で考えていくことが大事だと思います。

新しい年が始まりました。この一年の計を考え、生きる意味や幸せの意味を問う人も少なくないでしょう。そんなとき、ほんの少しだれかのために役立つことも意識すると、視野が開けてくるかもしれません。

イラクの子供が教えてくれた「誰かのために役立つ生き方」 kamata01.jpg2019年5月に完成した「JIM-NETハウス」。

チョコ募金の申し込みは、JIMINETへ。電話03-6908-8473(平日10~6時)かファクス03-6908-8474、https://www.jim-net.org/choco/のメールフォームで。

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<教えてくれた人>

鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948 年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。

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この記事は『毎日が発見』2020年2月号に掲載の情報です。

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