医師で作家の鎌田實さんが語る「生島ヒロシさんの人生を変えた習慣」

定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師で作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「健康も、人生も、自分でつくる」です。

この記事は月刊誌『毎日が発見』2023年9月号に掲載の情報です。

生島さんへの大きな借り

テレビやラジオで活躍している生島ヒロシさんは、健康通で知られています。

数年前には筋肉ムキムキの肉体を披露して、同世代に「やればできる」と希望をくれました。

その生島さんに、実はぼく、大きな借りがあります。

彼が毎朝、MC(司会)をしている「生島ヒロシのおはよう一直線」(TBSラジオ、月~金、朝5時30分~)に電話出演することが決まっていたときのことでした。

その朝、ぼくはすっかり寝坊してしまったのです。

言い訳をすると、外国から帰国したばかりで時差ボケがありました。

おまけに当時飲んでいた睡眠薬の影響で、番組からもらった電話にも気が付かなかったのです。

「鎌田先生、電話に出てください」「ご近所の方、鎌田先生を起こしてください」

ラジオ番組の本番で、生島さんはそう呼びかけたそうです。

この番組は全国で放送されていますが、ぼくが住む長野県では放送されていませんでした。

だから、当然、近所の方も起こしには来てくれません。

結局、生島さんは台本を参考に「鎌田先生はこんなことを話す予定でした」とまとめ、その場をしのいだのです。

ぼくが言うのもナンですが、さすがの対応力だと思います。

行動しながら考えるたくましさ

その生島さんから健康の本を一緒につくろうとお誘いをいただきました。

借りを返すチャンスがやってきました。

そこでできたのが、『心も体もポジティブになる70歳からの「貯筋(ちょきん)」習慣』(生島ヒロシ、鎌田實共著、青春出版社)です。

健康にとって大切な食事や運動、睡眠について対談しながら、それぞれが実践している筋トレや健康習慣などを紹介しています。

この本づくりの過程で、ぼくはますます生島さんが好きになりました。

もともと虚弱体質だったという生島さんは、「健康になるには運動だ」と父親に言われ、野球を始めました。

ふるさと宮城県の海岸で、父と子のキャッチボール。

ほほえましい光景です。

そのとき、父親が言った「海の向こうにはハワイがある、アメリカがある」という言葉で、生島少年は大志を抱きます。

そして、大学時代、本当にアメリカへ渡りました。

経済的に親に頼ることはできません。

アメリカで空手ショーや住み込みのお手伝いさんをしながら、なんとか学費を得ました。

本当は大変な苦労だったと思いますが、生島さんが語るとなんとも楽しそうです。

帰国後、TBSの入社試験で、役員を前に言った言葉もいいなと思いました。

「民放の雄であるTBSで修行させてください。独立後は絶対に恩返しします」

御社に骨をうずめる覚悟です、などとへつらわないところが、よかったのかもしれません。

人懐っこいキャラクターの生島さんはほどなくしてテレビやラジオで大活躍。

人気アナウンサーとなり、40歳目前で独立を果たし、芸能事務所を立ち上げることになりま
す。

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TBSラジオで生島さんが共著を毎日宣伝。

人生を支えた筋トレ習慣

人生、順風満帆に進んでいくかに見えましたが、大きな落とし穴が待っていました。

不動産投資に失敗し、10億円の借金を抱えたのです。

50歳のときでした。

自分や家族のことだけでなく、芸能事務所の社員やその家族への責任も重圧となってのしかかってきました。

夜も眠れないくらい追い詰められてもおかしくありません。

しかし、生島さんは違いました。

若いころからうまくいかないことがあったら、体を動かす習慣があったといいます。

10億円の借金を抱えたときには、腕立て伏せや腹筋、スクワット、四股...思いつく限りのトレーニングを、それこそ映画のロッキーになったつもりでがむしゃらにやりました。

体はくたくたに疲れるので、あれこれと思い悩まず、ぐっすり眠ることができたのです。

シンプルにして最良の睡眠法です。

この生島流のピンチの乗り越え方には、二つの意味でいい点があります。

一つは、運動によって、テストステロンという男性ホルモンが分泌されること。

別名「やる気ホルモン」「チャレンジングホルモン」といい、筋力アップだけでなく、メンタルもアップしてくれます。

女性も、男性の10分の1ほどではありますが、テストステロンが分泌されています。

何かに挑戦しようという意欲をつくってくれる大切なホルモンです。

生島さんが借金の重圧につぶされず、どんな仕事でもやってやるぞと思うことができたのは、運動で体を動かし、チャレンジングホルモンをうまく出せたからではないでしょうか。

もう一つは、運動後の疲れによってぐっすり眠れたことです。

睡眠は、体と心の健康の大事な条件です。

生島さんが「ま、いっか、なんとかなるさ」と楽天的になれたのも、よく眠れたためだと思います。

かくして生島さんは15年ほどかけて借金を返済しました。

老後2000万円問題で、「貯金がない」と不安になる70代は多いかもしれません。

でも、借金があっても、貯金がなくても、体が元気ならばどうにかなる、と生島さんは語ります。

「貯金より貯筋」と言ってきたぼくも、この考えには大賛成です。

6月でぼくは75歳になりました。

後期高齢者の仲間入りですが、気持ちは若造のつもりで、生島さんに負けず、これからもいろんなチャレンジをしていきたいと思っています。

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被災地支援に行く新幹線の中でバッタリ。

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羽田空港でも偶然の出会い。お茶を飲んで、それぞれ北と南へ。

《カマタのこのごろ》

医師で作家の鎌田實さんが語る「生島ヒロシさんの人生を変えた習慣」 2309_P125_05_W500.jpg誕生日のプレゼントに、70本の赤いバラと5本の白いバラをいただきました。佐賀で「がんばらない健康長寿実践塾」を主催し、「まちなかライブラリー鎌田文庫」をつくってくれている方からのプレゼントです。
佐賀は、女性の健康寿命が日本一になるなど、健康度が上昇しています。成果を実感することで、さらに健康づくりの意欲が高まっています。

文・写真/鎌田 實

 

<教えてくれた人>
鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。


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