DVやハラスメント、性犯罪に娘のいじめ...「女性が巻き込まれやすいトラブル」は数多くあります。でも、そうした悩みを解決したくても、「誰かに相談したら逆に悪化するかも...」とどうしていいかわからない人も多いと言います。そこで、弁護士の上谷さくらさんと岸本学さんの著書『おとめ六法』(KADOKAWA)より、女性の味方になってくれる「法律」についてご紹介。ぜひ、ご自身やお子さんがトラブルの参考にしてください。
親権がないなら育てなくていい?
離婚後、子どもの親権を相手に渡したからといって、養育の義務を免れるわけではありません。
子どもを引き取らなかった側も養育費の支払い義務を負います(民法第766条)。
しかし養育費を支払ってもらう取り決めをしたものの、支払われなくなり、催促しても応じてくれなくなる......という場合は少なくありません。
相手に養育費を払ってもらうための方法には次のものがあります。
履行勧告(家事事件手続法第289条)
家庭裁判所が、元配偶者に養育費等の支払いを促してくれる無料でできる制度です。
離婚調停や離婚裁判を審理してくれた裁判所に電話を一本するだけで、調査と手続きを進めてくれます。
調査と手続きは、家庭裁判所の調査官が行います。
調査官は、相手に対して不履行の理由等を確認し、相手に養育費を支払うよう求めます。
ただし、相手が従わなくともペナルティはありません。
履行命令(家事事件手続法第290条)
家庭裁判所が、相手に養育費等の支払いを命令してくれる無料の制度です。
相手がこの命令に従わない場合、10万円以下の過料に処せられます。
ただし、養育費などを強制的に徴収する効果はありません。
強制執行
裁判や調停などの結果、養育費の支払いについて和解・調停調書や判決に記載をされていれば、強制執行が可能な場合があります。
そして、養育費などの定期的に支払われるお金(定期金債権)について、未払い等がある場合には、将来の養育費についても、相手の給与を差し押さえることが可能です。
うまくいけば、相手の勤務する会社が相手への給料の2分の1を限度として、養育費の金額をあなたに支払うことになります(例外はあります)。
ただし、差し押さえが可能なのは、給与や賃料など、相手に継続的に入って来ることが決まっているお金に限られます。
また相手が転職して勤務先がわからなくなった場合には、事実上難しい場合があります。
養育費の取り立てがしやすくなった
離婚時に子の養育費の取り決めをしていても、離婚後、元夫が払わなくなり、財産を差し押さえしようとしても、どこに財産があるのか、今の居住地や勤務先がどこなのかもわからないため、泣き寝入りしなければならないケースが多くみられました。
しかし、養育費は子どもの成長のために必要不可欠なものです。
支払われないと、子どもの貧困につながったり、希望する教育が受けられなかったりします。
この不都合を避けるため、2020年4月から、養育費の取り立てがしやすくなるよう民事執行法が改正されました。
養育費の取り決めのある調停調書や公正証書がある場合、地方裁判所に申し立てると、裁判所が元夫の預貯金の口座情報や勤務先の情報を、金融機関や市町村などから取得できるようになりました。
しかし、養育費の取り決めが口約束や、当事者どうしだけの念書などの場合、この制度は利用できません。
協議離婚の場合でも、養育費については公正証書を交わしておくことが重要です。
【事例1】
離婚して子どもの親権を取得し、前夫からは養育費をもらっている。その後、私は再婚。再婚相手(後夫)と私の子は、養子縁組をした。この場合、前夫の養育費はそのままもらえる?
【ANSWER】
子どもの第一次扶養義務は後夫が負い、前夫は第二次扶養義務を負うことになります。後夫に経済力がない場合などを除き、前夫は実父ではありますが、扶養義務を負わないので、養育費を支払わなくてもいいことになります。ただし、前夫が「実子なので払い続けたい」というのであれば、受け取ることは自由です。なお、後夫が養子縁組しない場合、後夫は法律上の扶養義務を負いませんので、引き続き前夫が養育費を負担することになります。
【事例2】
離婚して子どもの親権を取得し、シングルマザーとして子育てしている。前夫からは毎月決まった養育費が支払われている。ところが先日、前夫が別の女性と再婚し、子どもが生まれたことが判明。私の子は、これまで通り、養育費を払ってもらえる?
【ANSWER】
前夫が別の女性と結婚した場合、その女性に収入がなかったり、二人の間に子どもが生まれたりすれば、当然に前夫は新しい家庭の妻子について扶養義務を負います。その時の前夫の収入にもよりますが、これまでに払っていた養育費の金額は減る可能性が高いです。
【あなたを守る法律】
家事事件手続法 第289条 義務の履行状況の調査および履行の勧告
1 義務を定める第39条の規定による審判をした家庭裁判所は、権利者の申出があるときは、その審判で定められた義務の履行状況を調査し、義務者に対し、その義務の履行を勧告することができる。
ほかにも書籍では、恋愛・くらし・しごと・結婚など6つの章だてで、女性に起こりうる様々なトラブルに「どう法的に対処すべきか」が解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてくださいね。
六法やDV防止法、ストーカー規制法...。女性の一生に寄り添う大切な法律が、6章にわたって解説されています。