DVやハラスメント、性犯罪に娘のいじめ...「女性が巻き込まれやすいトラブル」は数多くあります。でも、そうした悩みを解決したくても、「誰かに相談したら逆に悪化するかも...」とどうしていいかわからない人も多いと言います。そこで、弁護士の上谷さくらさんと岸本学さんの著書『おとめ六法』(KADOKAWA)より、女性の味方になってくれる「法律」についてご紹介。ぜひ、ご自身やお子さんがトラブルの参考にしてください。
夫婦が「離婚したい」と思っても、夫婦のどちらか一方の判断だけで、勝手に離婚することはできません。
一口に離婚といっても、離婚には主に3つの方法があります。
協議離婚
お互いが離婚することに合意して、離婚届を提出することで成立する離婚です。
理由を問いません。
調停離婚
話し合いで離婚できないからといって、すぐ裁判をすることはできません。
家庭裁判所で、離婚について話し合う離婚調停を行う必要があります。
家庭裁判所の中の小さな会議室のような部屋で、調停委員さんが話を取り持ちます。
あくまで話し合いですので、双方が合意することが必要です。
一方が離婚を拒否したり、離婚意思が合致していても離婚条件が合わない場合は、離婚できません。
裁判離婚
調停離婚でも合意できなかったけれど、どうしても離婚したい場合は、裁判をするしかありません。
裁判離婚を提起できるのは、民法第770条第1項に定められた次の5つの要件のいずれかを満たす場合です。
①配偶者に不貞な行為があったとき
②配偶者から悪意で遺棄されたとき
③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
ほかに審判離婚もありますが、離婚のうち、協議離婚が全体の約90%、調停離婚が約10%、裁判離婚が約1%です。
裁判離婚の要件のうち、①~④まではわかりやすいですが、それらに該当しない場合、⑤の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあたるかどうかが問題となります。
いわゆる「性格の不一致」や、「DV」「子育てをしない」「酒を飲み過ぎる」などがこれにあたります。
重要なのは、それぞれの理由によって「婚姻関係が破綻しているといえるか」という点です。
離婚の原因があり、夫婦関係がすでに破綻していた場合や夫婦関係の修復が困難であった場合、その請求が認められ、離婚することができます。
協議離婚の場合
離婚届を役所に提出します。
子どもがいる場合、必ずどちらが親権者なのかを決めなければなりません。
養育費や財産分与などの離婚条件については、公正証書にするのがおすすめです。
公正証書にしておけば、たとえば養育費の支払いが滞った場合、ただちに給与差し押さえなどの手続きが可能になります。
公正証書は、公証役場で作成します。
調停離婚の場合
調停離婚が成立すると、家庭裁判所で「調停調書」という書類を作ります。
調停調書は、公正証書や裁判離婚の判決書と同様の効力があるので、養育費の支払いが滞った場合などに、差し押さえが可能になります。
また、この調書があれば、離婚届に双方が署名・押印する必要はありません。
一方が調書を持って役所に行けば、相手の署名・押印なしに離婚届を提出できます。
裁判離婚の場合裁判離婚をすると、「判決書」が出ます。
そして、離婚も訴訟である以上、控訴・上告できますので、判決を確定させることが必要です。
判決が確定したら、「確定証明書」を家庭裁判所で出してもらいましょう。
判決書と確定証明書を一緒に役所に持って行くと、相手の署名・押印なしに離婚届を提出できます。
結婚していたときの名前のままにしたい
離婚が成立すると、婚姻時に姓を変えた側は、自動的に旧姓に戻ります。
結婚していたときの姓を名乗り続けたい場合、届出が必要です。
この届出は、離婚の時から3カ月以内に行います。
忘れないように離婚届と同時に届け出るようにしましょう。
子どもの戸籍は自動でうつされない
たとえば離婚で母親が旧姓に戻り、子どもの親権を持つ場合、母親は結婚時の戸籍から抜け、新しい戸籍を作りますが、子どもの戸籍はそのままではうつりません。
新しい戸籍に子どもを入れるためには、まず子どもの苗字を母親の旧姓に変更する手続きが必要です。
これを、「子の氏の変更許可の申立」といい、家庭裁判所に申し立てます。
手続きは簡単ですので、裁判所のホームページを確認してください。
子どもの苗字が母親の旧姓に変更されたら「審判書謄本」が交付されますので、それを持って役所に行き、「入籍届」の手続きをします。
男性が婚姻時に苗字を変更した場合も同じです。
勝手に離婚されていた!?
離婚届は誰にでも簡単に記入ができるうえ、夫婦二人が揃って提出する必要はありません。
そのため、本人の意思に反して片方の配偶者が勝手に離婚の届け出をしてしまうことも可能です。
たとえば夫婦の仲が極度に悪化していたり、離婚の話し合いがなかなかまとまらず長引いていたりする場合、一方がさっさと届け出てしまうことがあります。
もし、本人の意思に反して協議離婚届が役所へ提出されてしまい、それが受理されてしまうと、形式上では協議離婚が成立してしまいます。
本来であれば、離婚合意のない離婚届出は無効になります。
しかしいったんは協議離婚が成立しますので、離婚の成立したことを認めたくないときは、家庭裁判所に対して協議離婚の無効について調停を申し立てることが必要になります。
このような無断での離婚届出を防止するために、離婚届の不受理申出制度が存在します。
不受理申出制度とは?
配偶者が一方的に提出した離婚届を認めないときは、家庭裁判所での調停、または訴訟をすることになり、離婚の無効を確認するための手続きが大きな負担となります。
もし、配偶者から勝手に離婚届を出される心配がある場合は、早い段階で役所に対して離婚届の不受理申出をしておきましょう。
不受理の申出手続きは難しいものでなく、一度提出をしておくと、その取り下げを本人がしないかぎり有効です。
本人の知らないところで離婚届が受理される心配はなくなります。
【あなたを守る法律】
民法 第763条 協議上の離婚
夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。
民法 第770条 裁判上の離婚
1 夫婦の一方は、法律で定められた場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
ほかにも書籍では、恋愛・くらし・しごと・結婚など6つの章だてで、女性に起こりうる様々なトラブルに「どう法的に対処すべきか」が解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてくださいね。
六法やDV防止法、ストーカー規制法...。女性の一生に寄り添う大切な法律が、6章にわたって解説されています。