相続、介護、オレオレ詐欺...。年を重ねるにつれ、多くのトラブルに巻き込まれるリスクがありますよね。そこで、住田裕子弁護士の著書『シニア六法』(KADOKAWA)より、トラブルや犯罪に巻き込まれないために「シニア世代が知っておくべき法律」をご紹介。私たちの親を守るため、そして私たちの将来のための知識として、ぜひご一読ください。
パワハラと同じく、介護現場でのセクハラも、深刻な問題となっています。
特に、自宅を訪問する「訪問介護」では、利用者に近い距離で介護することも多くセクハラを受けやすくなっているといえるでしょう。
介護職員には女性が多く、一人で利用者宅を訪問する訪問介護などは密室の中のできごとで、被害を受けた介護職員が事業所に訴えて発覚することがほとんどです。
【この条文】
刑法 第176条(強制わいせつ罪)〈抜粋〉
暴行、または脅迫を用いてわいせつな行為をした者は6カ月以上10年以下の懲役に処する。
どんな行為がセクハラに当たるか
セクハラには、例えば以下のようなものがあります。
・ 性的な冗談を言う
・ 性的な体験談を聞く・話す
・ 相手の身体への不必要な接触
・ デートや性的関係を執拗に迫る
・ わいせつな写真や絵などを見せる
介護現場でのセクハラの中には、「ちょっとからかわれた」という程度を超えて、次のような深刻なケースも報告されています。
・ 男性利用者の入浴介助中、自分で洗える箇所なのに「陰部を洗え」と命令される
・ 介護中に性的なビデオを見ている。わいせつな本をベッドに置いている
・ 調理をしている最中に、背後から羽交い締めにされた
・ 介助中に顔を急に近づけられ、キスをされた
・ 性的なことを訪問中に話し、制止しても止めない
・ 食事などの二人きりでの外出にしつこく誘ってくる
・ おむつ交換や入浴介助のときに胸をわし掴みにされた
・ 住所や連絡先などをしつこく聞き出そうとする
・ 訪問時に利用者が裸で出迎え、服を着てくださいと伝えても着てくれない
・ 男性利用者に追いかけられソファに押し倒された。すごい力で手首を押さえつけられ、全治2週間のけがを負った
・ 利用者の息子に部屋に連れ込まれ、身体を触られた
介護事業者の対応
利用者や家族からのセクハラは介護職員の心身状況を悪化させ、介護離職にもつながりかねません。
深刻化する介護者不足に拍車をかけるとの危機感もあり、介護事業者の方では、職員から利用者によるセクハラ等の行為について報告を受けると、次のような対策をとるようになってきています。
・ その利用者の担当から外す
・ 複数人での訪問や介護を行う
・ 各関係機関や家族などと対策を講じる会議を開く
利用者やその家族として気を付けるべきこと
加齢により抑制力がなくなったり、認知症で判断力が低下したりということもありますが、世代の違いや価値観の違いなどもセクハラの大きな原因といえるでしょう。
本人は「セクハラを行っている」という認識がなく、職員等が制止しても止めないケースも多いのが現実です。
したがって、家族や周囲の人としては、高齢者に対して「こういうこと(セクハラ)は、相手が嫌な気持ちになるから、言ったりやったりしてはいけない」ということをよく言い聞かせることから始め、このまま続くと、「どんな人も対応してくれなくなる。食事も入浴もできなくなる」ということも納得しやすい言い方で伝えましょう。
なお、本人と介護職員との会話をよく観察して、セクハラの傾向がみられるようなら、できるだけ二人きりにしないなどの配慮は必要です。
ほかにも書籍では、認知症や老後資金、介護や熟年離婚など、シニアをめぐるさまざまなトラブルが、6つの章でわかりやすく解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてください。