毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「"朝ドラあるある"の逆利用」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
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清原果耶主演のNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)『おかえりモネ』第19週のサブタイトルは「島へ」。
大型台風が去った直後、気仙沼では竜巻が発生。
百音の家族は無事だったが......。
そんな折、東京に来ていた菅波(坂口健太郎)は、百音にプロポーズする。
驚いたのは、結婚の話が月曜に登場したこと。
朝ドラでは、プロポーズは木~金曜(週6日放送時代には金~土)、結婚式が週の終わりに描かれるケースが多いだけに、これは明らかに失敗フラグである。
異色だらけの本作では、そうした"朝ドラあるある"を利用し、逆に不穏な空気を醸し出していた。
そんな中、家族に電話がつながらず焦る百音に「自分で見て確かめて、あなたにもできることをすれば良い」と背中を押してくれたのも、菅波だ。
震災のときに何もできなかった百音と今の百音は違う、と。
しかし、震災当時にはなかった橋を渡り、島に着いたものの、緊張や不安で立ちすくむ百音が物陰から見たのは、お祭りの準備のように賑やかに片づけをする人々のたくましい姿だった。
『おかえりモネ』のタイトルは、震災で無力感を覚えた百音がやがて故郷に戻り、地域に貢献するという意味だろうとは、おそらく多くの視聴者が思っているはず。
しかし、百音にとってハードルとなっているのは、実は妹・未知(蒔田彩珠)とのわだかまりだった。
百音は未知に「こっちに戻ってきても良いかな」と聞く。
こうした姉の態度は、もしかしたら妹をいつもイライラさせるものだったかもしれない。
「なんで私に聞くの?」と言う未知に、「このうち、ずっと守ってきたのはみーちゃんだから」と百音は言い、「私が嫌だって言ったら、戻ってくんのやめる?」の問いには「やめる」「私はここから逃げたから」。
未知にかつて言われた「お姉ちゃん、津波見てないもんね」の言葉は、百音を無力感や後ろめたさに追いやったものだ。
しかし、それが百音のせいではないことは未知もよくわかっている。
言わなくても良いことを、つい言わずにいられなくなってしまうのは、肉親ではときどきあること。
そこには肉親ゆえの甘えも安心感もあるが、衝突が残す心の傷は肉親だからこそ深く長く残る。
「違う。いられなくしたのは私だよ」「ひどいこといっぱい言った」と涙を見せる未知。
もしかしたらこの不用意な言葉に一番傷ついていたのは、言われた百音よりも、百音を傷つけ、二人の間に深い溝を作ってしまった罪悪感を抱えていた未知だったかもしれない。
上司などにも物怖じせず淡々と意見する百音が、なぜか妹にだけ過剰に気を遣うことに違和感を抱いていた視聴者も少なくないだろう。
そうした気まずさ、わだかまり、その根っこにある「負の感情」を、逃げずに正面から描いた19週。
結婚話はいったん保留、そして、モネの故郷への「おかえり」が本格化してきた。
【まとめ読み】『田幸和歌子さんの「朝ドラコラム」』記事リスト
文/田幸和歌子