木の実や霜除・・・11月を楽しむ俳句/井上弘美先生「俳句のじかん」

井上弘美先生に学ぶ、旬の俳句。11月は「小さなものを印象的に」というテーマでご紹介します。

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霜除けやこころにくくも蝶の影 阿波野青畝

11月8日(金)は立冬。霜降る季節となりました。

「霜除」は果樹や庭木を藁や菰などで囲って霜害を防ぐこと。庭園などでは冬の到来を告げる風景として風情があります。

この句は、その「霜除」に蝶が影を落としている様子を捉えて、できすぎとも思える風景を「こころにくくも」と表現したのです。偶然、自然が作り出した妙味。冬蝶の淡い小さな影が心に残ります。

作者は1899年、奈良県生まれ。「かつらぎ」創刊・主宰。蛇笏賞他を受賞。

温和な作風で俳壇の重鎮として活躍しました。1992年没。享年93 。

一位の実ふふみ一縷の歌ごころ 鍵和田秞子

晩秋から初冬は木の実色づく季節。茨の実や珊瑚樹実など、赤い実が目に付きます。「一位の実」は秋の季語ですが、晩秋から初冬に赤く熟します。
「一位」と名前に品格があって、実は熟すと食べられます。この句は「一位の実」を口にしたことで、小さな詩心が生まれたというのでしょう。

「一位」と「一縷」を一対にしている点が眼目。

若い頃から「一縷の歌ごころ」を育ててきた、作者の自負心が感じられます。

作者は1932年、神奈川県生まれ。「未来図」創刊・主宰。俳人協会賞、毎日芸術賞などを受賞。近刊句集『火は禱り』より。

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<教えてくれた人>
井上弘美(いのうえ・ひろみ)先生

1953 年、京都市生まれ。「汀」主宰。「泉」同人。俳人協会評議員。「朝日新聞」京都版俳壇選者。

この記事は『毎日が発見』2019年11月号に掲載の情報です。

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