60歳でソフトモヒカンに...!?年を重ねてからの「おしゃれ」/鎌田實「もっともっとおもしろく生きようよ」

雑誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」から、今回は鎌田さんが「年を重ねてからのおしゃれ」の必要性や効果について、語ります。

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カマタがソフトモヒカン?

もう9年前のことですが、がん治療の専門誌で、福祉美容師の篠田久男さんと対談したことがあります。彼は、悪性リンパ腫のステージ4。「がんと闘うための鎧のようなもの」と、ロックンローラーのような派手なファッションで身を固めていました。

篠田さんは美容師として、みんなが同じような髪形にするのが許せなかったようです。病気が進行してからも、ボランティアで福祉施設に行き、子どもたちの意見を聞きながら、その子に合った髪形にカットしていました。

ある日、彼は、ぼくの泊まっているホテルまでやって来て、ぼくの髪形をイメチェンしてくれることになりました。まず、髪を赤く染めて、当時はやっていたソフトモヒカンにしようということになりました。ぼくにとっては、髪を染めることもソフトモヒカンも初体験です。ちょっと戸惑いましたが、篠田さんが言うならとお任せしました。

しかし、ぼくの髪は弱く、ハードポマードを使っても立ちあがらず...。中途半端なソフトモヒカンに、二人でハグしあいながら大笑い。ふだんとは違う髪形や服装を楽しむことは、おしゃれの醍醐味。「こんな自分になれる!」と、自分の可能性を広げることこそ、生きる喜びです。

 

介護美容が生きる力に

ぼくが働く医療の現場では、「健康」や「命」が最優先され、「美」は長らく優先順位が低いものでした。特に介護の現場はその傾向が色濃く残っています。

「メイクしたり、おしゃれしたりということを女性は何十年もやってきた。それが、年をとったり、体が不自由になったり、施設に入ったりするとできなくなってしまう。目に入っては危ないということで、化粧道具を取り上げられてしまうことがあります。そういうことが本人にとってすごくショックなんです」

そう語るのは、介護美容に取り組むミライプロジェクトの山際聡代表。美容師を施設に派遣したり、介護美容の人材育成などを行っています。

介護美容がなぜ必要なのか、どんな効果をもたらすのか。山際さんはこんな例を紹介してくれました。
「美容業界の知り合いのお母さんが認知症で、自分の名前も忘れてしまったのですが、美容師である娘さんが顔そりと簡単なメイクをしてあげたんです。するとみるみる表情が変わって、数時間後にはハキハキしはじめ、自分の名前も言ったそうなんです」

こうした事例は、ぼくもよく耳にします。家に閉じこもりがちな障害のある人が、おしゃれな服を着たのをきっかけに外出を楽しむようになったという例などです。

髪形、化粧、洋服などを楽しむことは、その人の個性の表現であり、社会的な立場の表明でもあります。一日中、パジャマで過ごしていれば要介護老人と見なされますが、パリッとおしゃれをすれば、パリッとした人格を取り戻すことができるのです。これが介護美容による大きな効果でしょう。

 

触れることで、幸せホルモンが分泌される

介護美容には、もう一つの効果があります。ハンドマッサージや顔のマッサージなどで直接、人に触れられることで、幸せホルモンのオキシトシンが分泌されるということです。これは、医療の手当てや介護と共通しています。

美容界の大御所、山野学苑総長の山野正義さんと「人生100歳時代のアクティブライフフェスタ2019」で公開対談をしました。

山野さんは、おしゃれは生き方の表現と考えているようで、「おしゃれに定年はない」「美容師は人生のコンシェルジュ」などと話してくれました。

また、美容室を地域コミュニティーの切り札にすべきという斬新な考えも語ってくれました。美容室はいま24万店舗あるといわれています。日本はコンビニ大国ですが、美容室はその数より多いのです。その美容室で、洗髪したり、髪の毛を切ったりするだけでなく、おしゃれのアドバイスを受けたり、地域の人がおしゃべりをする場になれば、楽しい地域の拠点になる可能性があります。

ぼくは、いくつになっても地域で暮らし続けるために必要な「地域包括ケア」というネットワークづくりをすすめてきましたが、美容室や理容室が地域の拠点の一つになるという考えに初めて気づかされました。

 

美と健康はつながっている

南デンマーク大学のおもしろい研究があります。双子1826例の身体機能検査や認知機能検査、老化のバイオマーカー(血液や尿、組織などから得られたデータで、病気や体の状態を示す指標のこと)になる白血球のテロメアの長さなどを追跡調査したものです。

テロメアは、DNAが分裂する際ののり代のようなもので、分裂を繰り返すたびに短くなります。そのため、「テロメアが短いこと」は残された寿命も短いことを意味するといわれています。

遺伝子的に近い双子でも、長年の生活習慣や環境などによって、外見も少しずつ違ってきます。この研究では、見た目が老けているほうが、身体機能や認知機能が低く、テロメアの長さも短いということがわかりました。つまり、見た目と健康状態は一致するということです。

肌のシミやシワは、皮膚の下の毛細血管の状態にもかかわっています。ぼくは地域の健康づくり運動で、脳梗塞や心筋梗塞にならないために、血管を老化させないように野菜を食べよう、運動をしようと呼び掛けてきました。それは、病気を予防するだけでなく、肌や見た目の若々しさを保つうえでも有効です。美と健康はつながっているのです。60歳でソフトモヒカンに...!?年を重ねてからの「おしゃれ」/鎌田實「もっともっとおもしろく生きようよ」 B_IMG_9151.JPG

 

年を取ることで失う美しさもありますが、年を取ることで得る美しさもあります。いくつになっても、自信をもって個性を表現し続ける生き方こそ美しいと、ぼくは思っています。

 

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鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948 年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。

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この記事は『毎日が発見』2019年7月号に掲載の情報です。
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