自分は何者なのだろう...「中高年クライシス」をのりこえよう/鎌田實

雑誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」から、今回は鎌田さんが「毎日実践していること」について語ります。

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中高年になって再燃する悩みとは

自分はいったい何者なのか、何のために生まれてきたのか――。こんなふうに自問自答するのは、思春期の若者の専売特許ではありません。

いっぱしの中高年になっても、この問いかけが頭のなかにわきあがってくることがあります。そして、これまでの人生を振り返って、この生き方でよかったのか、もっとやれることがあるんじゃないか...と思い悩みます。

いわゆるミッドライフ・クライシス、中年の危機です。中年といっても60、70代の人も経験するようですから、中高年クライシスといってもいいでしょう。

 

新しい自分の役割を探して

中高年クライシスと一口にいっても、さまざまなタイプがあります。その一つは、自分の役割がわからなくなる危機でしょう。

ぼくはこれまで、生きていくために大事なものは、働く場があることと、自分が何かの役に立っているという意識だと伝えてきました。地域でも、会社でも、家族でもいい。人とのかかわりのなかで、自分の居場所があり、役割があると、人は生きる意味が見えやすくなります。

しかし、定年で仕事をリタイアしたり、子育てが一段落したりして、これまでの自分の役割が変わってしまうと、急にこれまでしてきたことが無意味に思えたりします。子育てが終わって「空の巣症候群」になったりするのはいい例です。

また、人間関係の危機によって中高年クライシスに陥る場合もあります。熟年夫婦が離婚したりするのは、これに類するでしょう。

これらは、まわりの人や社会とのかかわりが大きく関係しています。これまで築いてきた社会的地位や役割、人間関係に縛られすぎたり、逆に変化に対応できず自分だけが執着したりすることで、思い悩むのです。

 

もっとワクワクしたい

中高年クライシスを迎えた人の特徴として、人生の急ハンドルを切ることがあります。もっと違う生き方があるのではないかと、転職したり、大学に通い始めたり。ありきたりな生き方から脱したいともがきます。

この行動の背景には、これまでの自分の殻を破りたいという思いがあるのではないでしょうか。何か新しいことをやってみたい、ワクワクしたいのです。

 

ぼくが院長を辞めたかった理由

実はぼくにも、身に覚えがあります。48歳のとき、突然、パニック障害になりました。ぼくは貧乏のなかで生き抜いてきたので、そう簡単には心は折れないと思ってきました。でも、往診に行った先で、冷や汗が出て、激しい動悸と頻拍発作に見舞われるパニック発作が出て、病気になることの苦しみをあらためて知ったのです。

この経験をきっかけに、当時務めていた院長を辞めたいと思うようになりました。医師の仕事はやり甲斐のあるものでしたが、院長職は会議などに時間をとられます。自分にはもっとやりたいことがあるはず、という焦りに似た思いが強くなりました。

しかし、すぐには院長を辞められず、52歳のとき、経営責任者になることで、ようやく院長職を退くことができました。経営責任者も辞めて完全にフリーな立場になったのは56歳のとき。時間はかかりましたが、病院を辞め、自由になった時間で、イラクやチェルノブイリなどの医療支援に力を入れることができるようになりました。ぼくは、あのときの決断が人生を広げてくれたと思っています。

 

挑戦する姿勢が人生を変える

ある銀行が、人生100年時代を前向きに生きるために挑戦してみたいことは何か、エッセイを募集しました。ぼくはその選考委員になりました。ユニークな挑戦には、中高年クライシスをのりこえるヒントがあるように思います。

サックスによる昭和歌謡の出前コンサートを実施している70代の男性は、「80歳までに1000回開催したい」と夢をつづっています。

自分のやりたいことを追求するのを第一にしながら、そこにほんのちょっと「だれかのために」という思いがあると、モチベーションが高まります。だれかに喜んでもらえるということで、新たな自分の役割も発見できるでしょう。

定年退職した後、いっしょにいる時間が増え、息が詰まるという夫婦の話をよく聞きますが、ある65歳の男性は、妻の弁当づくりを始め、その危機をのりこえました。これまでの妻の役割を、夫が体験する「とりかえばや」で、お互いに理解を深めることができたのです。何より、家のなかの空気は俄然よくなりそうですね。

この「だれかのため」という視点や夫婦の「とりかえばや」は、中高年クライシスをのりこえるために、とても大事なことのように思います。

 

うつ病や更年期障害に注意

中高年は、健康への不安が大きくなる時期でもあります。たとえば、うつ病。日本全体でうつ病患者は90万人といわれますが、60~70代はその約半分の35万人といわれます。うつ病というほどではないうつ傾向の人はもっとたくさんいます。

なかには、全身に倦怠感がある、肩こり、腰痛、手足のしびれ、身体症状が目立つ仮面うつ病の場合があります。うつ病とわからず、内科や整形外科の病気にされていることもあるので要注意です。また、女性も男性も更年期障害で、元気が出ない、疲れやすいといった症状に陥る人も少なくありません。

これらの健康不安は、中高年クライシスをこじらせてしまう可能性があります。自分の健康とむきあっていくことも、中高年クライシスを上手にのりきるコツといえるでしょう。

人生に限りがあることを実感できる年齢だからこそ、わかる価値があります。中高年クライシスをばねにして、ぜひとも人生を謳歌したいものですね。

 

 

<教えてくれた人>
鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948 年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。

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「ぼくは67歳で筋トレを始めてから、人生が変わった!」と話し、ご自身を「スクワット伝道師」という鎌田實先生(71歳)の健康法を大公開。「スクワット」や「かかと落とし」など無理なくできる「筋トレ」の方法をはじめ、ゆで卵やジュースなどの「若返りごはん」レシピ、「心の若返り方」や、若々しい先生の「着こなしの極意」まで、盛りだくさん。保存版の一冊です!!

この記事は『毎日が発見』2019年6月号に掲載の情報です。

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